第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
「指導に長けてる奴がいるだろう。そいつらに頼むんだな。何も俺じゃなくてもいいじゃねぇか」
それとも、と書類をローテーブルに投げ置く。
「俺じゃなきゃいけない理由でもあるのか? 例えばタイプが似てるとか」
「どうだろうな、才能が開花するかどうかは不明だが……まあ、ないだろうな」
「は?」
書斎机に後ろ手を突き、角にエルヴィンは腰掛けた。苦い色で笑ってみせる。
「おそらくまったくのド素人だ。貴族の遠縁ということだが、剣術も全然だろうな。たぶん柄を握ったことすらないと思う。剣ダコなど一切なくて手が綺麗だった」
「そんな荷物になりそうな奴、なぜ入団の許可を出した」
「さっきも言ったろう、断れない大人の事情だ。人材不足も深刻だから、戦力になってくれればいいとも思っているがな」
エルヴィンは肩を竦めた。金がらみ。断ると資金援助を止められるとでも思って弱気になっているのだろうか。
「超特急で仕上げろってことか」
「そうだ。誰よりも厳しい教官が適している。それはお前以外にいない」
舌打ちをして、リヴァイはゆったりと立ち上がった。
「仕方ねぇ、預かってやる」
「なんだかんだと、そう言ってくれると思っていたよ。指導は明日から頼む。今日中に顔合わせだけでもしておいてくれ」
結局こうなると最初から確信していたのだろう、悪いとも思っていなさそうにエルヴィンは微笑んでいる。リヴァイにはそれが少々面白くなかった。とどのつまり自分は甘さのかけらもないと思っているが、甘いところがあるということである。
「そいつの部屋は何号室だ」
「お前の隣だ」
退室しようと回り込んでいたリヴァイはソファ越しに振り返った。「は!?」
「三階の三一一号室だ。何か問題でも?」
「三階は上官部屋だろう。なぜそんな使えなさそうな奴を特別待遇にする」
「これは向こうから――紹介元たっての要望でね。どうしても一人部屋がいいんだそうだ」
反吐が出そうだった。調査兵団の中には貴族出身の者もいるが、みんな志高く、そんなわがままを言う人間は一人もいない。
「これだから貴族様はクソなんだ」
吐き捨ててリヴァイはドアノブを握った。エルヴィンに罪はないのに湧いてくる怒りがつい表に出てしまい、扉を強く閉めてしまった。