第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
「来たついでといってはなんだが、管内を案内してやってくれないか」
「いいよ。彼の部屋割りは決まってるの?」
「ああ、ここだ」エルヴィンは鍵をハンジに手渡した。部屋番号が刻まれたキーホルダーつきだ。
「へぇ……、三階ね」
ハンジは鍵を見つめながら意味深に言い、
「特別な子?」
「そういうわけじゃない。先方の要望でな」
ふーん、と眼鏡の縁から両眉を上げてを見てくる。彼女がどう特別に思ったのか、には分からない。
エルヴィンは白い歯を見せて苦笑した。
「気になることがあれば彼に直接聞けばいい」
「詮索好きのおばちゃんみたいに言わないでくれるかな。んじゃ、ささっと案内してくるね」
「悪いな、助かるよ」
団長相手に気さくな態度だった。調査兵団はアットホームな組織なのだろうか。そうではなく、おそらくハンジが上官だからなのだろうけれど。
「さ、行こうか」
ハンジに促されたは団長室を退室した。
※ ※ ※
訓練を終えたリヴァイは休憩に入ろうとしていた。兵舎に戻ろうと外を歩いていた時、本部の三階の窓から手を挙げている人間が見えた。あの窓は団長室で、自分に向かって「来い」と合図をしていた。
エルヴィンからの呼び出しである。
「めんどくせぇな」
ここから階段を上がっていくのは骨が折れる。丁度立体機動を装備中であるし、これを使わない手はない。
トリガーを操作して、リヴァイは本部の壁にワイヤー付きのアンカーを飛ばした。地を蹴ってガスを噴射しながら巻き取ると、身体が空を飛んだ。
窓から直接入ってこようとしているリヴァイにエルヴィンが気づいた。慌てた顔で、急いで窓を引き上げようとしていた。
何十秒もしないうちに窓の正面まで来たリヴァイは、ガスを噴かしてホバリングする。
「早く開けろ!」
空中浮遊は短時間しかもたないから、アンカーを差し替えて一回転することで保たせる。