第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
次の言葉が最後だろうと思われたが、きりっとしていた眉をエルヴィンは緩めた。ふっと笑ったようだった。
「いま一番欲しいのは即戦力なんだがな」書類を捲る。「国のために何かしたいと伯爵に言われてしまっては、無下にするのは心苦しい」
背凭れに寄りかかり、エルヴィンは腕を組んだ。
「ここでの生活は厳しいものになるぞ。本来なら三年の訓練を経て入団となるのが一般的だ。君は何の技術もない。だが、みすみす死ににきたわけではあるまい?」
「はい」
「君にやる気があるのなら、いい教官をつけてやろう。集中訓練になるがどうする?」
「頑張ります」
口をついた言葉は、流れで何となく返事してしまったものだった。
「いいだろう。調査兵団への入団を許可する」
「ありがとうございます」
とは言ったものの、あまり嬉しく思えなかった。
04
入団の申し込み用紙に小さく記入してある注意事項を読み、了承のうえで拇印を押した。
もエルヴィンも一言も発しない室内に、ふとノックが二回鳴る。音から聞き取れたのは、しゃきっとした感じではなく、だらけたような響きだった。
「失礼するよ」
と言って入室してきたのは眼鏡をかけた女兵士だった。小脇に書類を抱える彼女は、ソファに座るを不思議そうにちらりと見やってから、エルヴィンの前に立った。
「提出するのが遅れてた報告書、やっと仕上がったよ。殴り書きになっちゃったけど」
書斎机にばさっと紙束を置く。
「ご苦労――と言いたいところだが、できれば期限内に出してもらえると助かる」
「やることがいっぱいあってさ。巨人の研究でしょ、巨人の研究でしょ、巨人の研究でしょ」
「すべて巨人の研究だな」
あはは、と笑って女兵士はハーフアップの頭を掻きむしった。
「丁度いいところにきた。紹介しよう」
エルヴィンは腰を上げ、に向かって手を差し出す。
「彼は・デッセル。今日から調査兵団の一員だ」
「初めまして、よろしくお願いします」
ちょこんとおじぎをすると、ハンジがに向き直った。にっと口端を上げる。
「初めまして。私はハンジ・ゾエ。第四分隊長をしている者だ」
階級的には上官にあたる。より年上なのは明らかだった。