第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
着ている軍服はを連行しようとした憲兵団の物とほぼ同じだが、胸許や肩の紋章だけが違う。こちらは馬ではなく、鳥の羽根をモチーフにしたものだった。
手許の書類にエルヴィンは眼を通している。の個人情報が記載されているものだろうと思われた。
「・デッセル、二十三歳、性別は男」視線がと重なる。「で、間違いないかな?」
就職活動のときの面接みたいな緊張感が走る。嘘をついている分だけさらに増す。それでの返答が二、三秒遅れてしまった。
「間違いありません」
「ずいぶんと華奢な身体つきだな」の頭のてっぺんから爪先を、エルヴィンの鋭い眼が行き来する。「体力がないと厳しいぞ」
「着痩せして見えるだけです。人並みに体力はあると思います」
は口からでまかせを言った。エルヴィンの目線は再び書類に落ちる。
「フェンデル伯爵の遠縁とあるが、何か特技はあるのか。剣術や弓術などだが」
「すみません、そういうのはできないんですが」
エルヴィンが顔を上げた。眼が丸い。
「できない? 詳しくは載っていないが、遠縁とあるのだから君も貴族の一員だろう?」
何か可怪しなことを言っただろうか。心当たりを巡らすの頭に世界史の教科書が浮かんだ。中世ヨーロッパの貴族たちはスポーツとして剣術や弓術を嗜んでいたという。経験がないほうが不自然なのだ。発言を打ち消さなければ。
「や、やるにはやりますが得意ではないだけです。外で身体を動かすよりも、部屋に籠って読書をしていることのほうが好きでしたので」
「苦手ということか。君が調査兵団に入る有用性は、ほかにあるか?」
拙い。いらない人材と言われているように聞こえた。何かないか、社会で培った何かがあるだろう。と探してみるが、この面接に落ちてもいいやとは思っていたりもした。男装で過ごすことに不安があるからだ。
「書類整理……は自信を持って得意と言えます。データ管理や収集です」
「秘書はいらない」
日本刀で切られてしまう。