第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
仰天したの声は裏返る。
「男装!?」
「髪を切りたくなかったら好みのカツラを作ればよい。潔く短髪にしても黒髪のままじゃと悪目立ちするから、どのみち染色せねばなるまいし」
両手での頭を撫でつける。
「カツラのほうが手っ取り早いかの。わしのを貸してやってもよいが、ちいとばかし古臭い型だから嫌じゃろう?」
顎を上げて愉快に笑うフェンデルの姿に、金持ちの悦楽を垣間見たであった。
「こんなふざけたこと、絶対ばれるって」
涼しくなった首許を触れる。指先を掠った毛先はブラウンのかつらだった。
もともとの髪はロングヘアで、連休前に形状記憶パーマを当てたばかりだった。気の進まない男装のために短くするのは嫌だったので、かつらを作ってもらった。女性のラインを隠すために、さらしを巻いて胸の膨らみも潰してある。身長が一般女性の平均であるから、男性というには背が低いのが欠点か。
充分男に見えるとフェンデルは絶賛してくれた。彼の屋敷で雇われているメイドもを見て何人か頬を染めた。
複雑な心境である。男に見えると言われて喜ぶ女がいようか。
(いないわよ……)
それに長年連れ添った顔は、贔屓目にみても男として認識されなかったのだ。
「まだかしら」
は手持ちぶたさを感じはじめていた。どのくらい経ったかと、装飾棚に置かれている時計を見る。
と、ドアノブの回る音がした。
堂々と入ってきた男は、に見向きもしないで軽快に踵を鳴らす。ソファを回って正面の書斎机まで歩き、手に持っていたファイルを置いた。そして、座り心地のよさそうな肘掛け椅子に深く腰掛けた。
ここで男と始めて眼が合った。緊張が走って、の膝の上にある手が拳になる。
両手に顎を乗せた人物こそ待っていた相手――
「待たせたね。私が調査兵団団長の、エルヴィン・スミスだ」
想像していたよりもずいぶん若かく、歳は四十そこそこで、金髪の髪を七三分けにしている男だった。調査兵団のトップだと聞いていたので、もっと厳格なお爺さんを予想していたのだが外れてしまった。