第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
フェンデルが両手を叩いた。すると、応接間の外で待機していたメイドが礼をして入ってきた。
「お呼びでしょうか」
「あれの部屋からスーツを一着持ってきておくれ」
「かしこまりました」
再び礼をしてメイドは退室していった。あれとは何だろうとは小首をかしげる。
ややしてメイドが戻ってきた。腕に男物のスーツを掛けている。「これでよろしいでしょうか」と伺うメイドに、フェンデルは満足に頷いてみせた。
「彼女に着させてやっておくれ」
気持ち目を丸くさせたメイドだが、主の言うことに意は唱えない。「かしこまりました」
対しては目を大きくする。
「それ男物ですよね?」
「オーダーメイドじゃからサイズは合わんかもしれんが、丈なんぞ詰めればよいだけじゃ。とりあえず着てみなさい」
「なんで男物を着させるんですか」
「すまんすまん、わしがいては着替えもままならんの。外で待っておるから済んだら呼んでおくれ」
「かしこまりました」返事をしたのはメイド。は腰を浮かして、「待って」と手を伸ばすが、フェンデルはさっさと出ていってしまった。
なんでどうして、と疑問だらけのうちにはスーツを着せられてしまった。袖は指先が隠れるほど長い。ズボンの丈も長くて転ばないように何重も巻かれている。全然サイズが合っておらず、不格好だった。
着替え終わったを見たフェンデルは、目尻に皺を作って笑った。
「大き過ぎるの。やはり直しが必要か」
「これはどういうことなんでしょう?」
は胸の前で幽霊のように手をだらんとさせた。余っている丈の袖許がぶらぶらと揺れる。
フェンデルの手はふさふさのカツラを掴んでいた。どこかから持ってきたようだ。
「わしので悪いんじゃが、試しにこれも被ってみなさい。もっとそれらしく見えてくるじゃろうて」
それらしく? とはまた首を捻った。頭に短髪のかつらが乗ると、感嘆な声が上がった。
「おお、よいよい! まさに男装の麗人じゃ!」