第4章 :紐帯と残虐と不義(七色の虹が大空に弧を描いた)
吐息のようにリヴァイは言う。
「そうじゃない、揺らいじゃいない」
「嘘! さっき眼を逸らしたじゃないですか!」
つい荒い感情を表に出すと、リヴァイはぐっと黙り込んでしまった。
はリヴァイが許せなかった。索敵班になってしまったことはもう甘んじている。けれど怖いから考えないようにしてきたのに、決断した当の本人がいまになって揺らいでいるからだ。
(それならはっきり言ってやるわ)
いまのは冷静ではなかった。負の感情などリヴァイに抱いていないのに、彼の心に引っ掛かっていることを突き放すように言ってしまう。
「恨んでます、当然じゃないですか」
ストレートに言ってみせたが、リヴァイは身じろぎもしなければ表情さえも変えなかった。崩れない態度に怒りが募っていく。甚だしくショックな顔を見せたなら、少しはすっきりしたかもしれなかったが。
の口調が荒らげる。「回答しましたよ」
「そうか。俺の用は済んだ、戻っていい」表情なしにリヴァイは短く言った。
「なんですか、それ」
両の拳が震えるのは迫りくる大波のような怒りの衝動のせいである。起爆寸前のは、食卓を両手で叩くようにして突として立ち上がった。ガラス製の水差しが、ことりと音を立てて倒れる。
「聞いておいてなんですか、それ!」
零れた水が広がっていくから突いている両手が冷たかった。食卓の木目を透ける水が端から床へぽたぽたと滴ってゆく。
「前線に置かれてもボクに巨人なんて倒せない!」
「分かってる」
「みんなみたいに立派な正義感もない! 望んで調査兵団に入ったわけでもない!」
眉を寄せてリヴァイは僅かな当惑をみせた。興奮して本音を曝け出すを、しかしリヴァイは叱らないけれど。
「あけすけ過ぎる。望んでいたわけじゃないのなら、なぜ入団を決めた」
「知らなかったんですよ!」眼を瞑って激しく頭を振り、は当たり散らす。「調査兵団が酷な組織だってことを知らなかったんですよ!」
「そんなこと小せぇガキだって知ってるってのに、なぜお前が知らない」
この世界では当たり前の常識を、が持ち合わせていないという事実に、リヴァイの表情に表れている当惑の色が濃くなる。