第4章 :紐帯と残虐と不義(七色の虹が大空に弧を描いた)
情緒不安定になっているの感情は、めまぐるしく変わる。水を触れる手を見降ろした。ぐんぐん冷えていくことで物恐ろしさを呼び起こされる。たちまち怖くて震えてくる。
「……どうしよう」
感情的になっていると、リヴァイはどう接していいか分からないのか。困惑の顔でただ見据えていた。
「どうしよう……。全然関係ないのに……縁もゆかりもないのに……死ぬかもしれないの?」
「少し落ち着け、気が動転してる」
遠慮がちにリヴァイは手のひらを突き出した。彼にはどう見えるだろうか――命惜しさに取り乱すが。
顔を上げて捲し立てる。
「動転させたのは誰ですか! どうしよう! 死んじゃったらどうしよう! いやだ! こんなところで死にたくないのに!」
「大丈夫だ、俺が死なせない」
及び腰で立ち上がり、リヴァイは噛んで含めるように言った。
「そんなの神様でもない限り分かんない! もし生きて帰れなかったから、どうしてくれるんですか!」
頭を振りながらは叫んだ。リヴァイもやり場のない思いを投げつけるように声を荒らげる。
「なら謝ればいいか!」
食堂中に反響した声はを大仰にびくつかせた。見開いた瞳からぼろぼろと涙が零れてくる。顔を覆って泣き叫んだものは懇願に近かった。
「謝らないでください! 揺らがないでほしいの! 間違ったなんて思わないで! そうじゃないと――」
そうじゃないと、の命を軽く扱われているようで虚しくなる。
「すまない、違う」
弱り果てた顔つきでリヴァイはそう言った。急くように食卓の角を回っての傍らに立つ。しかし額を押さえて、
「いや、違わねぇ。微かにずっと揺らいでたんだ」
リヴァイがの肩に腕を回そうとした。が、直前で躊躇ってなぜか思いとどまる。半月の夜は胸で泣かせてくれたのに今夜はそうしてくれない。
代わりに顔を覗き込んできた。
「だがもう二度と揺らがない」触れるのを戸惑うように、の頬に掛かる髪を指先で掬い上げる。「だからいい加減泣きやんでくれ」