第4章 :紐帯と残虐と不義(七色の虹が大空に弧を描いた)
リヴァイが一言も発しないまま時間は流れる。
(これじゃあ次はトイレで目が覚めちゃう)三杯目の水を飲み干した時だった。
しんと静まり返っている空間でリヴァイの微かな息づかいが静寂を破った。
「近頃よそよそしいが、俺を恨んでいるからか」
は一回ぱちりと瞼を閉じた。リヴァイの体勢は変わっておらず、相も変わらず目線は文庫本にある。
リヴァイはのよそよそしい態度に気づいていたようだ。けれど――
は首をかしげる。
「恨む? なんのことですか。唐突過ぎて分からないんですけど」
眉の下や下唇の下に陰影が落ちている顔をリヴァイは上げた。言いづらいことなのか、唇が小さく開いたかと思えば閉口する。
「リヴァイ兵士長?」
彼は文庫本を閉じた。伏し目だったリヴァイの瞳とようやく合わさる。
「お前を――最前線につかせたことに対して聞いた」
の時が数秒止まる。思考を乱されたあとで乾いた半笑いが出てしまった。
「なんでそんなことを聞くんですか」
「どう思ってる」
「聞いてどうしようというんですか」
リヴァイは黙った。
はちんけな半笑いになっていく。非難じみた口調になった。
「いまさらそんなのが気になるだなんて……。まさか自分の決断に迷いがあるとかじゃないですよね」
微妙に泳ぐリヴァイの瞳がから逸れた。小さな反応だったが動揺したように感じ取れた。
「そんなのひどい」
笑みを消して、は食卓の下で拳を握った。リヴァイの瞳が再び戻ってきたが、
「エルヴィン団長を振り切って、意見を通したのはリヴァイ兵士長じゃないですか。あなたの決断一つで、ボクの生死が決まってしまうかもしれないんですよ」
リヴァイが口を開きかけたがは追求の手を緩めない。
「いまごろ揺らいでるんですか。あなたの下した判断で、ボクが怨霊になるかもしれないのが恐ろしくなりましたか」