第4章 :紐帯と残虐と不義(七色の虹が大空に弧を描いた)
「こんな夜中にどうした」
リヴァイの声で、はぎくりと身体を揺らした。足音が近づいてくる気配を感じていたのか。入り口から食堂のほうへ覗き込んだ影も伸びていたのかもしれない。
(誰かまでは分かってないわよね。無視して帰っちゃおう)
「か。こそこそしてないで、こっちへ用があるなら入ってくりゃいいだろう」
(バレてた……)
目敏い。どうして気づいたのだろう、とは首を捻りたい。去る機会を奪われたので、おずおずと食堂へ足を踏み入れた。
「水を飲みにきたんです。喉乾いちゃって」
「晩飯があとを引いてるのか」
「はい」と俯きがちに靴音を鳴らすと、リヴァイの視線は合わさらない。彼の目線は手許の文庫本に落ちていた。暗い影のほうが場を占める、頼りない灯火に包まれて、読書をしているようだ。かさりとページを捲る音がする。
「ついさっきも、水を取りに兵士がやってきた」
「……そうですか」
の態度はよそよそしい。社交界以降、なんだか普通に接しづらくて他人行儀になってしまっていた。リヴァイの態度から察するに、がであると露見していないことは確かだと思っているが。
彼の後ろを通り過ぎてはそそくさと厨房へ入っていった。頬杖を突いたリヴァイが横目で観察していたとは気づかなかったけれど。
水差しとコップを手に入れて、やはり俯きながらリヴァイの前を通り過ぎようとした。「では失礼します。おやすみなさい」
「待て」
呼び止められての肩がびくっと跳ねた。伺うようにリヴァイを見ると、座れというふうに顎をしゃくった。
「なんでしょうか。眠いんですけど」
「いいから少しつき合え」
酒を飲んでいるわけでもないのに何につき合えというのだろう。話でもあるというのか。
仕方なしにリヴァイの正面の椅子を引いて腰掛けた。目的である水分を取るためにコップに水を注ぐ。
リヴァイの口は動かない。が一杯飲み干しても、伏せ気味の顔は開かれた文庫本を見ていた。が、眼が一点を注視しているので読んでいるようには見て取れなかった。
手持ち無沙汰なのでは二杯目を注ぐ。こぽこぽと涼しげな音が鳴る。
(……なんなの、この間)