第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
あまりのことで動けなくなった。は混乱しつつリヴァイを注視した。瞳は伏せている。上半身の緩やかな動きから呼吸が深そうに見えた。どうやら寝ているらしい。
「やだ、どういうことよ、これ」
高価そうなライティングデスクや、何かの戦いを織物で描いたタペストリー。室内の装飾は同じだけれど、メイドがいないのでの客室ではなく、リヴァイの客室のようだ。
圧迫感がなくスカスカする感覚に、ははっと眼を見開いた。がばっと掛け布団の中を覗き込む。
「なんで、どうして。ドレス着てないし、コルセットもつけてない」
ドレスはハンガーに吊るされて壁に掛けられていた。いま確認しうる現状だけで推測してみる。
脚を組んでいるリヴァイの格好は昨夜のままだ。白いベストにスラックス。シャツがだらしなく乱れている様子もない。
はドレスもコルセットも着用していないが肌着とパニエは着ていた。全裸でないことが何もなかったとは言い切れないが、限りなく何もなかったように思えた。
(あるわけないわよ、あったら困る)
とりあえず自分の客室へ戻らなければならない。衣ずれの音をさせないように、そっと起き上がる。
船を漕いだリヴァイの頬から手が滑って、かくんと首が落ちたことで彼が目を覚ました。まだ眠そうな眼でぼうとを眺める。
眼が合って、は唇をむぐむぐさせた。火にかけられたように全身が発熱していく。
「な、な、な」
問い詰めたいことが先走って巧く発語できない。あくびをして瞳を潤わせ、リヴァイはのんびり口調で言う。
「お前が気にしているようなことは何もなかった」
間違いないか、とダメを押そうと口を開く前にリヴァイが先読みした。
「本当だ。何もない」
「じゃ、じゃあどうして私、ドレスを着ていないの」
「お前はコルセットのせいで気絶した。そんな状態の奴が部屋の場所など教えられるわけないだろう。だから俺の客室へ連れてきて、コルセットを外してやった。それだけだ」
介抱してくれたらしい。九十九パーセント何もなかったと身体が言っているが一パーセントの疑いの色がの眼に出る。てるてる坊主のように掛け布団を纏う。
「……それだけって言われても」