第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
の顔が横に流れた。それで、互いの唇があまりに近過ぎたので掠れてしまった。
飛び跳ねるように体勢を起こして、リヴァイは口許をつと覆う。瞠目しすぎて眦が裂けてしまうかと思った。
「クソアマがっ、ふざけやがってっ」
心拍数が尋常でないくらい早く、耳にすら響いてきた。たかが掠っただけの口づけで、どうして青い少年のように心臓を爆発させているのか。安らかそうなを凝視しながら、不意打ちだったから驚いただけなのだと、リヴァイは自分を言い聞かせた。
(まったく……何をやってんだか俺は)
ベッドの上でしばらく項垂れてからリヴァイはをちらりと見た。胸許が非常に目に毒なので、引きずるようにして枕許に頭を持っていく。
途中ドレスが脚から抜けて一瞬眼を剥きそうになったが、パニエを着用していたので生脚が曝け出されることはなかった。なんだか面白くなくて彼女の腰許をぺしりとはたいた。そして、「んん…………ん」と屈託なく寝返りしたに掛け布団を掛けてあげた。
それからリヴァイは、窓付近に据えられているジャガード織の一人掛けソファに腰掛けた。肘掛けに腕を預けて頬杖をし、月のあいだをうす絹のような雲が歩いていくのを見るともなく見る。
リヴァイの指先がおもむろに唇を触れる。輪郭をなぞりながら、いましがたの感触を思い出していた。
瞬きのあいだのことだったが、鮮明な記憶として脳に刻み込まれてしまった。しっとりと、それでいて柔らかく、温かだった。それと、酒の味がするはずなのにとても甘かった――気がした。
※ ※ ※
可愛らしい小鳥のさえずりに誘われてはゆるりと瞼を開けた。室内は薄暗いが夜明け前のような瑠璃色をしている。
天井のクロスに見覚えがなくて、一瞬「あれ?」と思ったが、脳が覚醒していくにつれ、城の客室なのだとわりとすぐに気づいた。よく寝たような気はするが身体が怠い。寝たまま、「うーん」と背伸びした。
伸ばした腕をぱたんと胴体の両脇に伏せる。なんとなしに窓のほうへ眼をやった。瞬間びっくり箱のように目玉が飛び出そうになった。
――ソファで頬杖を突きながらリヴァイが頭を垂れていたのだ。