第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
貴族たちは自分さえ豊かならそれでいいのだ。だから富裕層が住むウォールシーナばかりが充実していく。彼らは税を搾り取るのみで何もしない。
階級の高い人間は、国の一大事の際に率先して庶民を守るのが鉄則ではないのか。四年前の掃討作戦の時を思い出すとリヴァイは胸くそ悪くなってくる。溢れた難民をゴミを捨てるように平気で戦場に送り出したのだ。
(てめぇらが、そう王に進言したからだ)
いくつか並ぶ扉の前でリヴァイは足を止めた。ゆっくりと片膝を突いてを固定し、スラックスのポケットから鍵を抜き出す。腕を伸ばして鍵穴に差し込んで回し、扉を少し開けた。
脚に力を入れて再度を横抱きし、背で扉を押して暗い室内に入った。そして肘で扉を閉めた。カーテンが畳まれたままの、窓から差し込んでくる月明かりを頼りに、リヴァイはベッドまで足を進める。
女を抱き上げるなどリヴァイにとっては容易いが重くないわけではない。サイドテーブル近くで、大仕事し終えたとばかりにベッドに腰掛けた。
数十分経つがはまだ気絶したままである。薄闇の中では二人とも青白く見えて彼女の顔色の悪さが分からない。
ベッドメイキングされたペイズリー柄のカバーの上で、両脚のあいだに収まっているはリヴァイの肩にくたりと身を寄せている。
ドレスを脱がしてやらないとコルセットを緩めてあげられない。応急措置とはいえ、恋人でもなんでもない男が行ってよいものか。
リヴァイは少し迷ってから、の背中に腕を回して小さな釦を外していった。背骨の凹凸が見える素肌はほくろや染みが一つも見当たらなかった。繊細な刺繍が施されているドレスの胸部は、釦を外していくリヴァイを拒むように、極細の糸が爪に引っ掛かってくる。
「ったく」
若干苛々するのは焦れったいからに違いない。に何かする気などないのに、陶器のような白い背中を早く曝けだしてみたい、と心の奥底で思っているからであった。
腰許の下まで全部釦を外した。はだけたドレスの狭間からレースのコルセットが覗いている。ぎちぎちに締め上げられている紐の結び目にリヴァイは手を掛けた。