第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
やれやれ、と溜息をついたリヴァイは氷を足して蒸留酒を注いでやる。それからラベルが剥がされたワインボトルに手を伸ばす。そこに入っている冷えた水で割ろうとしたらがグラスを奪ってきた。
「薄めないでよ、ロックが好きなの!」
「そうは言うが、かなり酔ってるだろ」
「飲まないとやってらんないわ。性悪じいさんめ……思い出しただけで悔しいんだから」
と正面の空席を睨む。
「酔いつぶれても俺は介抱しないぞ」
「部屋にメイドさんがいるから来てもらえば平気だもの。あなたはつき合ってくれなくて結構よ」
頬杖を突き、リヴァイはを横目しながらまた溜息を零した。熟成した葡萄酒を喉に流す。
カスパルが去ってからはテーブル席で酒を飲み始めた。だんだんペースが早くなり、あっという間にこのざまである。
こうなる前に力づくで止めさせることもできたが、あえてしなかった。腹が立つ気持ちは分かるし、関係のないリヴァイまでもカスパルは気分を悪くさせてくれたからだ。だから好きに飲ませてやっていた。
(貴族様はいいもん飲んでやがる。俺たちがいつも飲んでるやつなんざヘドロだな)
ワインボトルを手に取ってラベルを見入る。めったに飲めないであろう上等の葡萄酒を舌で転がしながら、リヴァイは顎や頬に倦怠感を感じていた。
グラスを置いて頬周りをほぐす。なぜこんなところが疲れているのかは分かっていた。
(気持ち悪いくらいに笑ったな)
よほどのことがあっても普段は笑ったりなどしないリヴァイが、一生分と思えるくらいの笑顔を今夜だけで作った。それもこれも隣でもじもじしているのせいなのだけれど。
不思議に思う。彼女といると、つい表情が緩んでしまうらしい。
「んー……トイレ」
「吐くのか?」
「違うわよ、生理現象!」
恥ずかし混じりに怒って、はテーブルに両手を突いた。そして椅子から腰を浮かせた。と、眼を閉じてふらりと横に倒れそうになる。
「おい!」
慌てて腰を上げ、の肘を掴んで強く引く。全体重をリヴァイの手に委ねては椅子からくたりと崩れ落ちた。
「どうしたってんだ、急に」