第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
ユーリエがにこやかに言うと、中年の男は眉根を顰めてリヴァイをちら見した。調査兵団に対して良い印象がないのか、それともリヴァイが地下街出身者だからなのかは分からない。が、好印象の眼ではない。
「向こうへ行こう、ユーリエ。カスパル様がご令孫を紹介したいと申されているんだ」
紳士の傍らにはもう一人、威厳を放つ老人がいた。名前に反応して目許を緩めたから、おそらく彼がカスパルだ。
「せっかく会えましたのに」
名残惜しそうにリヴァイに視線を流し、ユーリエは立ち上がった。と、老人のわりにカスパルの鋭い瞳がを突き刺してきた。
「タカ派の娘か」
「タカ派?」
眼をぱちくりさせたに、カスパルはえげつなく口許を歪めてみせた。
「フェンデル殿のご息女だろう。ならばタカ派だ」
「鳥――ではなくて?」
控えめに聞き返すとカスパルは嘲笑した。
「ジョークが言えるとは面白い」
ジャケットを羽織っているの腕を、肘で突いてきたリヴァイが耳打ちする。
「教養がねぇのか、お前は。タカといえば」
「分かってるわ、政治的な意味でしょう。空気が固いからちょっとボケただけなのに」
少し尖った耳にも囁き返した。
タカ派とは政治的傾向の分類で、武力による解決を辞さない集団のことを示し、もしくは強硬派ともいわれる。
逆はハト派といい、対話による平和的解決を目指す集団のことを示す。嫌な顔で見てくるカスパルはハト派思想なのかもしれない。
(真っ向からタカ派なんて言われるとは思わなかったわ)
平静を保とうとしているが実はは動揺していた。言葉自体に悪い意味はない。政治が絡めば多少は対立するものだ。が、カスパルの瞳からは強い嫌悪が感じられた。
フェンデルがクーデターを企んでいるであろうことはなんとなく推し量っている。ゆえにタカ派がその事に繋がってしまうことは危険な気がした。