第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
この世界では東洋人は珍しいらしく、その身も常に危険がつき纏うようだ。初めて知ったは幾ばくか驚きである。
言われてみると東洋人を見かけたことはほとんどなかったという事実に気づいた。身近ではミカサしか思いつかない。
いままで危険に曝されなかったのは男装による変装のおかげだったのだろう。ならばフェンデルが男装させたのはの安全を思ってのことだったのであろうか。
(ううん、きっとそこまで考えてないわね。バレる可能性を危惧しないで、リヴァイやエルヴィンと顔合わせさせちゃう楽天家だもの)
「そういえばリヴァイ様も様と同じ髪の色をされてますのよね。もしや東洋人でいらっしゃいますの?」
女が微笑みかけるとリヴァイは鬱陶しそうに背凭れに深く寄りかかった。
「黒髪が東洋人だとは限らない。そもそもの瞳と俺の瞳は色が違う」
「本当だわ。灰色に少し青みがかかっているのね」
眼を覗き込んできた女からリヴァイは顔を逸らした。
「東洋人だろうがなんだろうが、同じ人間には変わりない。そうやって区別するのは下品だと思う」
――同じ人間。突然この世界に放り込まれたにも、果たしてリヴァイは同じ言葉をくれるのであろうか。
こちらにそっぽを向いたリヴァイの瞳が気になった。が顔を突き出すと彼は僅かに引く。
「なんだ、お前まで」
「あなたの瞳って、光の具合で群青色に見えるのよね」
双眸を細めてリヴァイもの瞳を見入ってきた。
「お前は、黒と思っていたが茶なのか」
人間の目の色は三つに別れる。茶、黄、青の三色で、各色の混合の具合で個体の目の色が決まるのだ。日本人の目の色は黒と表現してしまいがちだが、これは間違いであり、本当は純粋な茶なのである。
「ユーリエ」
ふいに聞こえた男の声。すらりとした中年の紳士が現れ、女の肩に手を添えた。
「お父様。サロンのほうでお話は終わりましたの?」
女の名前はユーリエというらしい。彼女は添えられた手に自分の手を重ねて瞳をしならせる。
「こんな所で何をしているのかな、私のレディは」
「リヴァイ様とお話ししてましたの」