第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
行き場がなくてリヴァイの腿を叩く。
「なんで抵抗しないでされるがままなの」
「野暮なことをお聞きになるのね。リヴァイ様もイヤじゃないからに決まってるじゃない」
両者のあいだに挟まれたリヴァイは腕を組んで黙すことに徹している。男は狡い。修羅場は自分とは関係ないといったふうである。
は苦渋の言い分を放った。
「貴族の令嬢に、角が立つようなことは避けたかったからよ」
顔を伏せ、女は気色ばんで吐き捨てる。
「さっきから面白くないのよね、正統派ぶっちゃって」
「そういうんじゃ……」
ことさら意地悪じみた微笑を女は浮かべた。
「確かフェンデル様のご息女でしたわよね。養子になられたとか」
「ええ、そうです」
「お髪が黒いですけれど、様って東洋人でいらっしゃるの?」
日本人は東洋人に含まれるだろう。
「そうなるかしら」
「……そういや、そんな顔つきしてたな」
ぼそりと言ったのは急にしげしげ見てきたリヴァイである。人種の違いにさほど興味がなかったのだろう、いまさら気づいたというふうな態であった。
「東洋人って大層な値段で取引されるっていうじゃない? フェンデル様っておいくらで買ったのかしら」
意地の悪い質問に動揺をみせたのはリヴァイだった。眼を瞠り、真に迫る勢いでに向き直る。
「売られたのかっ、それで使役させられてるのかっ」
「え? 使役って何よ」(取引? 売られた?)
一体なんの話をしているのかには分からない。きょとんとしているとリヴァイが念を押してきた。
「どうなんだっ」
「ごめんなさい、なんのことだかよく分からないんだけど」
「自分のことだろうが!」
断片的な言葉から連想できるものは、
「人身売買?」
「売られたわけじゃないんだな?」
「ち、違うわ、そんなわけないじゃない。フェンデル家の……と、遠縁だって言ったでしょう。お母様の血が半分混ざってるのよ」
戸惑いをみせて返すとリヴァイは安堵したような浅い息をついた。
「ならいい。犯罪だからな」
「人身売買は東洋人に多いの?」
「数が圧倒的に少ないことが希少価値を高めてる。妙な興味を持つ貴族が多いせいで、闇ブローカーがあとを絶たない」