第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
さりげない気づかいは嬉しい。だが、
(器用なんだか不器用なんだか。リヴァイ目当てが明らかな女性と相席したら、ややこしいことになるって、考えが及ばなかったのかしら)
ここはリヴァイを立てて黒子になるとしよう。心を穏やかにさせ、はナイフとフォークでソーセージを切る。と、手からフォークが滑ってテーブルの下に転がり落ちた。
(やっちゃった)
半身を曲げてテーブルクロスの中を覗き込む。瞬間、はぎょっとした。
ヒールを脱いだ女の白い足先が、リヴァイの脛の辺りを艶かしく滑っていた。テーブルの上では一般的な会話が繰り広げられているが、足の動きは正反対だ。
(いつからこんなことやってたわけ)
ストッキングの足先はリヴァイの踝までゆっくりと下がっていく。スラックスの裾をたくし上げながら、黒無地のソックスの上をくすぐるようにちょっかいを出し始めた。リヴァイは足を払うこともせず、されるがままである。
リヴァイの優しさに感謝して、が影に徹しようと心に決めたよそで、彼らは卑猥なことをしていたのだ。
テーブルクロスから出てきたの顔は耳まで赤かった。照れではなく怒りであるが、しばし頭を下げていたので、血が溜まっていたせいもあるだろうけれど。
リヴァイの脚を思いきり爪先で蹴った。眼を眇めた彼がこちらを向く。
「痛ぇな、今度はなんだ」
「なんだじゃないわよ。不埒なことはやめてくださる? 私も隣にいるのよ」
誇らかな眼つきで女が割って入る。
「もしかして足のことをおっしゃってる?」
「ほかにあるなら教えてほしいわ」
「それなら不埒じゃなくてよ。社交界ではみなさんされてることじゃない」
は傍らで多少居心地悪そうにしているリヴァイを厳しく問い詰める。
「そうなの?」
リヴァイではなく女が回答した。
「そうなのよ。悔しかったらあなたも色仕掛けをしたらいいじゃない」
「私にはリヴァイさんに色仕掛けをする理由がないもの。だから悔しくなんてないわ」
「でしたらどうしてそこまでかっかなさるのかしら」
はむぐっとだんまりした。どうしてムキになっているのか自分でも不明なのだ。内でメラメラと燃える炎の正体が分からない。