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水平線に消えゆく[進撃の巨人/リヴァイ]

第1章 :青嵐と不安と潮騒(彼女の世界と彼の世界)


 我慢ならないという不快な顔つきをしているのは、いつから患ったのか記憶にもない潔癖性のせいだった。

 興奮した感じの青年が傍らに飛び降りた。
「兵長! いまのどうでしたか!?」
「なかなかよかった。だが一瞬躊躇したろう」
「仕留める瞬間、色々考えてしまって。切り込みが浅くて失敗したら、班を危険に曝してしまうとか、自分がやられるかもしれないとか……そしたら怖くなってしまいました」
「迷いは禁物だ。仲間を信じて思いきりいけばいい。もし仕留め損ねても俺たちがいる。そうだろ」

 青年は心弛んだ笑みを深くさせた。たちまち少年っぽさが露わになる。
「はい! 次はもっと巧くやれるよう頑張ります!」
「始めての仕留め役にしちゃ頼もしかった。次も頼んだぞ」
 青年の肩にぽんと手を置いて労った。場所を移動しようと背を向ける。「周囲を確認しにいく。まだ潜んでいる巨人がいるかもしれん」

 ふと背後の空気が揺れた気がした。
 おどろおどろしい気配を感じて肩越しに振り返ったときには、もう遅かった。

 崩れかけている屋根越しから、巨大な顔がにゅっと現れた。「みな散れ!」と大声をあげようとして口を開けるよりも先に、人間を食らおうと唾液が線を引く大口を開けたのは巨人だった。
 餌食になったのは真後ろにいた青年であった。状況が分からぬままに、青年は横からかぶりつかれた。

「え」
 青年の口から出た第一声はそれのみで、(一体何が自分の身に起きたんだ?)と心底不思議そうな表情をしていた。あとから襲ってきた痛みに、ようやく顔が崩れる。かはっと血反吐を噴き出し、
「へ……い、ちょ」

「まだ助かる! 全員、戦闘態勢に入れ!」
 青年を加えたまま、巨人は四つん這いで犬のように逃げていった。行動が可怪しいのは奇行種の特徴だった。
「逃げられる! 急げ!」
 あとを追おうと踏み出すが、運の悪いことに奇行種はもう一体潜んでいた。建物の死角から姿を見せた巨人が、班員をなぎ倒そうと腕を払ってきた。

 目の前で青年が食われたことで、まだ動揺が残っていた班員は行動が遅れた。
「うああ――!」
 二人が奇行種に捕まってしまう。
(どうする、どっちを助ける! 目の前か、連れ去られていく奴か!)
 百戦錬磨の彼も、さすがに混乱しそうだった。迷っていたら部下が堅い声を上げた。 
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