第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
――要は女に出しに使われたらしい。が一緒ならばリヴァイは必ずついてくると計算のうえだったのだろう。
「リヴァイ様、お酒を作りましょうか?」
精緻な多面体カットのロックグラスに女は氷を入れようとした。リヴァイが女の手からトングを奪う。
「いい、自分でやる」
「作って差し上げたかったのに」
「好みの濃さがあるんでな」
白い霜を纏う金属製のアイスペールから、ダイヤモンドのような丸い氷を一つグラスに落とす。
(私のことはまるっきり無視ね)
八人掛けの丸テーブルは、リーフ模様の刺繍が入った白いテーブルクロスが膝下まで垂れていた。隣合うようにとリヴァイ、そして女が腰掛けている。一つ椅子を空けて相席している男女もおり、楽しそうにお喋りしていた。
リヴァイは平たいボトルから琥珀色の蒸留酒をグラスに注ぐ。
「は何を飲む。蒸留酒にするなら、ついでに作ってやるが」
口を開けて返答しようとしたら、横取りするように女が口を挟んできた。
「わたくしも同じものがいいわ。リヴァイ様が作ってくださるなんて嬉しい」
喜々としていきなり腕を絡まれ、リヴァイの手許が狂う。グラスから注ぎ口が逸れてテーブルクロスに薄茶の染みが広がっていく。
「分かったから揺らすな。また零れる」
「何してるのよ。子供じゃないんだから、いちいちテーブルを汚さないでよね」
は布巾を手にして、ぽんぽんと押さえるように水分を拭き取る。唇はへの字に折れ曲がっていた。坂道を転がるボールのごとく絶賛気分が降下中である。
「俺のせいじゃないだろう」
「お可哀想なリヴァイ様。こんな小さな事で目くじらを立てることないじゃないの」
自分のグラスをリヴァイに寄せた女は、厚ぼったい唇の両端を意地悪そうに上げる。
「まるでわたくしの、うるさいおばあ様みたい」眼を丸くして額を触れる。「あら、小皺!」
「え!?」焦っては額を手で伸ばす。「やだ、嘘でしょ!」
呆れた感じでリヴァイはの手を伏せた。
「嘘に決まってるだろう。お前の年で小皺があったら、俺は塩揉みされたキュウリのような顔になってる」