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水平線に消えゆく[進撃の巨人/リヴァイ]

第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)


 首を傾けてはそっと窺う。
「落ち込みそうになったときは、そうやって遠い日を思い出すの? うたかたのように霞みはしない? その蒼穹」
「霞みはしない。いまでも鮮明に瞳に焼きついてる」

「そう……。いつか見せてくれる? その大空」
 リヴァイは瞳をしばたたかせた。ややして口許に優しい色が帯びる。
「ああ。そのためにまた明日から頑張るさ」
「皺くちゃな顔で、壁外での記念写真はイヤよ」
 壁の明かりのほうに向かって自信満々にリヴァイは顎を尖らせた。
「任せろ。ばあさんになる前に何とかしてやる」

 人類最強と言われるリヴァイでも、壁外で体験したことが空虚を呼び起こすこともあるようだ。強い精神の持ち主に見えても、暗然としてしまうときがふとあるのだろうとは思った。

 アイスを全部たいらげたら体温が落ちたのか急に寒くなってきた。両腕を交差させてさすっていると、上着を脱いだリヴァイが肩に掛けてくれた。
 ありがとう、とは言い、襟を合わせて清潔な香りと一緒に温もりを閉じ込めた。

「壁外の空気って新鮮で美味しかったんでしょうね。一度知ってしまったら息苦しく思うもの?」
「ドブ臭く思うが、地下にいたころに比べりゃマシだ」
「地下って?」
 首を傾けるとリヴァイは言い迷うように瞳を泳がせた。つい口が滑ったというふうに見て取れる。やがて簡潔に発した。
「地下街だ。六年前に調査兵団へ入るまでは、地下街で暮らしてた」

「地下街って旧地下都市のことを言ってるの?」
「それ以外にないだろう」
 あまり言いたくなさそうに言い捨てた。
 ウォールシーナの地下にある旧地下都市。巨人が街に攻めてきたときに備え、大昔に建設された地下住居施設である。現在は国から放棄されて無法地帯と化しており、スラム化しているから決して近づかないように、とフェンデルからきつく言われている場所だ。

 バルコニーの高欄に背を凭れ、リヴァイは自嘲気味に言う。
「地下でドブネズミみたいに好き勝手してた奴が、こんなところでこんな服を着てる」白いシングルベストを摘んでみせる。「笑っちまうよな」
「可笑しくなんて思わないわ。昔の話でしょ。いまは調査兵団の兵士長さんなんだから、社交界に出席していたってなんとも思わないわ」
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