第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
止めようとしたのか、リヴァイは口を開いたが思い直したようだ。吹く風に数束前髪をたゆたわせて口許を綻ばせた。
「無理しない程度に食え」
「ええ」とは黄色のアイスを頬張った。さっぱりとしたマンゴーの味が舌に広がる。「美味しい。あなたも食べる?」
首を傾けると、「俺はいい」とリヴァイは喉を鳴らしてワインを飲んだ。アイスが減っていく皿を見つめてはくすっと笑う。
「どれにしようか、料理台の前で迷ってるリヴァイさんを想像したら、可笑しくなってきちゃう」
「適当に選んだと言ったろう。迷うでもなく手前から取っていっただけだ」
「本当に? ご丁寧にフルーツまで添えてあるのよ」
二個ある苺をリヴァイが摘んで口に放り投げた。
「俺が食べたかったんだ」
甘い口の中を辛口のワインで中和した。グラスの縁についた口紅を指で拭いながら、夜空の向こうを見渡してみる。
ずっと遠くのほうに点々とした明かりが横一列に並んで見えた。まるで東京臨海副都心と都心部を結ぶレインボーブリッジの照明のようだ。
「あれは何かしら」
「ウォールシーナとウォールローゼを隔てる壁だ。夜のあいだは、ああやって壁上でかがり火を焚く」
「壁より高い建物がないから、どこへ行こうとも見えてしまうのね」
足の裏がちょっと痛くて、はドレスの中で片方のピンヒールをこっそり脱いだ。
「充分に広いとはいえ、あれが見えるとやっぱり窮屈ね。籠の中の鳥みたい」
「箱庭で飼われている家畜と変わらない」
リヴァイに吐き捨てられて、の表情は曇った。
「私たち人間を、牛や豚と一緒のように言わないでよ」
「壁の外でうろつく巨人を見れば誰だってそう感じる。外敵から身を守るためでなく、食われるために飼われているんじゃないかと、そう錯覚しそうになる」
遠くを見据えているリヴァイの双眸は虚無の色を帯びていた。
「例えそうだとしても、それに抗おうとあなたは闘っているんでしょう? 飼われているような現状から抜け出そうとして命を張っているんでしょう? そんな悲しいことを言ってほしくないわ」