第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
戻ってくるなど思いもしなかった。おまけに鬱憤を聞かれてしまったらしく、振り返ったの顔はサウナ上がりのように真っ赤に色づいていた。
「も、戻ってくるならそうと言ってよ」
「飲み物を取ってきてやると言わなかったか。あれで通じないとしたら相当馬鹿だな」
珍しく可笑しそうにしながら、リヴァイはそばにある丸いガーデンテーブルに小皿を置いた。次いでグラスを差し出してくる。
「ほら」
は顔を逸らした。
「女の人に呼びとめられてたじゃない」
「それで機嫌を損ねてるのか」
「違うわ、喉がからからなのに飲み物が届かないかもしれないって思ったからよ。女の人にあなたが囲まれてたからじゃないんだから」
とりとめのないにリヴァイが眼を見開いてみせた。
「そこか」
「え!? いま何言ったかしら!?」
リヴァイは取り澄ました表情に変えた。
「女たちは適当にあしらってきた。あんなのを相手にしても疲れるだけだ」グラスを受け取れと揺らす。「とりあえず少し飲んで、気持ちを落ち着かせたらどうだ」
「ありがとう……持ってきてくださって」
水滴を纏うグラスを受け取って一口飲んだ。冷たい白ワインが乾いた喉を通って胃に落ちていく。
改めて平静を取り戻したは、大広間で気品よく笑い合っている女たちを見た。
「彼女たちを相手して差しあげてもよかったのよ。私といると疲れるでしょう」
「そんなことはない」
「嘘よ。どうして私なんかを相手にするの。綺麗な方がいっぱいいるじゃない」
手すりに片腕を預けて庭園を見ているリヴァイが僅かに口を開いた。どう言おうか考えているような沈黙のあとで発語する。
「機嫌を取ってくるよう、エルヴィンに言われた」
リヴァイがを構うのは仕事の一環らしい。怒りに似た熱いものが腹に沸き上がってきた。
「出資者の娘だから胡麻をすってこいって? ならもう充分よ、マナー違反な挨拶は水に流しましたから。あとはご自由に楽しんでらして」
立ち去ろうと身じろぎしたの腕を、慌てた様子でリヴァイが鷲掴む。
「違う、嘘だ」もどかしげに舌打ちをする。「ったく面倒な女だな。なんて言わせたいんだ、俺に」