第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
六角形のバルコニーへ出たは、熱が籠った胸許を手で仰いでいた。発汗して赤い斑点が浮かび上がっている肌に夜風が気持ちいい。若干興奮するほど、リヴァイとのひとときは楽しいものだったのだ。
「意外よね。そこらの貴族に劣らないぐらい、ダンスを踊れたり、気をつかえたり」
(わがままな女を手なずけたり?)
灰白色の手すりに肘を突いては頬杖をしていたが。手から両頬を浮かしてぶんぶんと首を振った。
「手なずけられてなんかないわ。あの人は初対面でも、私は知っているから気を許しちゃうだけだもの」
庭園を背にしてバルコニーの高欄に寄りかかる。片手にグラスを二つと、もう片方で小皿を持つリヴァイがこちらへ戻ってくる姿が見えた。が、数人の女性に取り囲まれる。
「やっぱりモテるのよね、あの人」
頬を赤らめる妖艶な花たちを前にしても、リヴァイはいつもの態度を崩さない。あまり邪険に接している様子も見られないけれど。
もしかすると、このままリヴァイは戻ってこないかもしれない。好意的な彼女たちのほうが、素直でないよりも一緒にいて痛快なことは明白である。
夜風が少し冷たいからだろうか。気持ちが沈んでいく。リヴァイから視線を逸らして、庭園のほうにくるりと身を回した。
「社交界で人気のある人が、私なんかを相手にするわけないじゃない。笑っちゃうわ、ただの気まぐれだったのよ」
笑っちゃうわ、と口にしたが、とても笑えない心地だった。ぶすっとした面持ちで手すりに置いた両腕に顎を乗せた。バーゴラに絡みつく薔薇が、花弁を散らすさまをなんとなしに眺める。
中途半端にちょっかいを出され、油断してドキドキしていたは非常に消化不良だった。
「悪戯に女心を弄んで! 急にほったらかしにされてみなさいよ! 胸のもやもやをどこで発散すればいいの!」
女性の体つきのような曲線をしたバルコニーの柱を爪先で蹴ってやった。固い石造りの柱はうんともすんとも言わず、ただの足を痛めつけただけだったが。
背後で忍び笑いが聞こえた。
「ほったらかしてなんかないだろう」