第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
「離れすぎだ。踊りにくい」
と言ったリヴァイが身体を寄せてこようとする。けれどは一歩遠ざかった。俯いていると、頭に優しい含み声が落ちた。
「急にしおらしくなったな。何が起きた?」
「別に何も」
大人びた余裕がひどく憎らしかった。早鐘のように胸が躍っているのはだけのようだ。難なくダンスをこなしてリードしたり、少し上から目線でをからかったり、すべての所作がリヴァイを素敵な男だと知らしめてくる。
意識しているなどと悟られたくはないから、決心をして彼の腹辺りに半身を触れ合わせた。
「これでいいかしら」
「ああ」と端直に言い、リヴァイは演奏に合わせて踊る。肩甲骨付近を触れる彼の手が、特にいやらしくなることもなく健全にダンスを続けた。
周囲で踊るほかの男女をは盗み見た。清潔に踊っているペアもいれば、艶っぽく寄り添ってただ揺れているだけのペアもいる。
(大胆ね。でも相手が好きな人なら悪くないかも)
頬を寄り添うように踊る男女から、つい眼を離せないでいた。と、耳に熱い息を吹き込まれる。
「ああいうのがお好みか?」
視線をリヴァイにぱっと戻しては口籠る。
「大胆だと思って見ていただけで、ああいうのがいいとかじゃ」
「今夜の俺は気分がいい。遠慮しなくても、お嬢様のご希望に沿ってやれるが?」
引き寄せられて互いの胸許がすれ合った。リヴァイとの頬の位置も近くて、咄嗟には顔を背ける。二人の鼓動が競うように身体に響く。
二人にしか聞こえない声量でリヴァイは囁いた。
「ほくろ」
「え?」
「額の生え際近くに、薄い小さなほくろがある」
頬擦りできそうな距離でなければ見つからなかったであろうほくろ。その事実がの羞恥を煽ってくる。
「細い首筋にも、目を引く胸許にも、華奢な肩にもないってのにな」
リヴァイの指が白い背中の窪みをさわとなぞった。「ん」と顎を引っ込めてはつい甘い吐息を漏らす。どういうつもりなのか分からないが、これ以上ダンスをしているとリヴァイの罠に嵌ってしまう。