第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
女性を手押し車のように引きずるリヴァイがダンスを踊れるとは驚きである。このままだと恥を掻くのはだ。
「困るわ、だって」
言い淀むと有無を言わさぬ力でついと手を引かれた。次いでリヴァイの腕が腰に回り、ダンスをしている人々の真ん中辺りへは誘導されていく。
「要するに踊れないんだろう。ならば下手な言い訳などせず、男に任せておけばいい」
ヴァイオリンの弦を滑る弓の動きが早い。周囲の人をくるくると楽しげに踊らせる軽快な曲調はジルバだった。
向かい合って互いの手を結ぶ。リズムに合わせてリヴァイは軽やかにステップを踏み始めた。
「その場で回ってればいいだけだ。人とぶつかることもない」
「ステップなんて踏めないわ」
凛と背筋を正しているリヴァイが左右に動いた。動き方が分からなくてはあたふたしながら方向だけを合わせる。
「ドレスで足の動きなんか見えない。適当にそれらしく動いてればいい」
「適当っていうけど、リズムが早くて」
周りは楽しげに踊っているのに、はついていくのにやっとで眉間の皺が取れない。ダンスは進み、リヴァイに右手だけでリードされる。
だらけたような薄目でリヴァイは言う。
「難しそうな顔をしてんじゃねぇ。もっと楽しく踊れないのかよ、つまんねぇだろ」
「そういうリヴァイさんだって楽しそうな顔じゃないわ」
「これは生まれつきだ」
実は楽しんでいるとでもいうのか。お手のものという具合にリヴァイの動きはとてもスマートだけれど。
くいっと軽く引き寄せられた。拍子に、もたついているの踵がリヴァイの黒い靴を踏んづける。
くぐもった音を喉から出し、リヴァイは眉を寄せて痛そうに片目をきゅっと瞑った。
「ごめんなさい!」は慌てて足を引っ込めた。細いピンヒールは激痛だったに違いない。
「強烈な武器だな。男を撃退したいときは、いまみたいに踏んでやるといい」
別段怒られはしなかった。再度両手を結び合って、リヴァイの腕の中をくぐる。広く開いたの背中にシルクの感触が密着した。