第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
「どこへ行くの」
答えずにリヴァイはずんずんと人並みを縫っていく。と、談笑しているグループの紳士との肩がぶつかった。
「ごめんなさい!」
持っているグラスから赤い酒が散ったが、紳士は焦った顔を瞬時に笑顔に塗り替えて、
「お気になさらずに」
と首を傾けてくれた。
ほどよい艶を放つテイルコートの裾を左右に揺らすリヴァイに不服を言う。
「ぶつかっちゃったじゃないの。レディファーストって言葉を知らないのかしら。こんなふうに女性を引っ張る男性なんて、どこにもいないわよ」
無視された。前のめりになりながら忙しく両足を動かし、はぷくっと頬を膨らませた。
中央付近までくると、交響楽団がヴァイオリンやチェロを弾いている姿があった。腹に響く派手な重奏に合わせて、鮮やかなドレスに身を包んだ女と男が麗しく踊っている。
(まさかダンスをしようっていうの!?)
リヴァイが何をしようとしているのか察したは狼狽えた。後ろへ体重を掛けるようにし、足を踏ん張って引き止めにかかる。
「だめよ、私踊れないわ!」
に引っ張られたリヴァイは、涼しい顔で肩越しに振り返った。
「なぜ? 貴族の娘だ。たかがダンスなんか朝飯前だろう」
養子だけれど戸籍上では元フェンデルの遠縁ということになっている。もともとが貴族ならば、箸の使い方を覚えるような感覚で、ダンスなど物心ついたころから教え込まれるのが普通なのだろう。
顎を尖らせては驕った態度を取る。
「ええ、当然よ、朝飯前だわ。でもさっき捻った足の調子が悪いの。華麗なダンスをお見せできなくて残念だけれど」
「大丈夫だと言ってたろう。見た感じ、腫れてもいなかったし捻挫もなかった」
リヴァイに手をくっと引かれたからは引き返す。
「あなた踊れないでしょう? みなさんに笑われて、恥を掻くのはイヤだわ」
「見くびられたもんだ。嫌々ながらも、こういう場へは何度も顔を出してる。無用なスキルだが嫌でも覚えちまうんでな」