第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
力が入らなかったので、たいした威力はなかったと思う。が、リヴァイは叩かれた瞬間のままで、大きくした双眸を小さな星のように瞬かせていた。
「あ、私」
叩いてしまった手をは胸に抱く。
手を振り上げたのは無意識だった。しかも当たってしまったことではさらに動揺した。泣きたい気持ちと恥ずかしい気持ちが半分半分で顔は火が噴く。
「ごめんなさいっ。でもだって、あなた変なことしようとしたっ」
しどろもどろである。
短く息をつくことでリヴァイは気を取り直したようだ。実直な瞳で見据えて淡々と言う。
「変なことなどするつもりはない」
「嘘、腕を回してきたじゃないっ」
「それは――」
言い含めるようにリヴァイが覗き込んできた時、
――ああ! ああ!
ひときわ欲に満ちた淫らな声が茂みから上がった。
「クソっ、なんだってんだ、あばずれがっ」
リヴァイがことさら不愉快そうに舌打ちをしてみせたのと、が眼を瞑って両耳を塞いだのは同じタイミングだった。
「もういや!」
「だから俺はっ」
少し強い声を発したリヴァイはの白い二の腕を触れた。
指先から伝う人肌が身内に生じた色情を掻き立ててくる。は思い切り振り払う。
「いや! 触らないで!」
「何もしない。どうしたんだ、一体」
身体を縮こませては叫ぶ。
「違うの! 分かってるのよ! でもあの声を聞いてると変になるの! だからいまは触れてほしくないの!」
リヴァイが瞠った瞳を揺らした。また腕に触れてこようとして、躊躇うように間際で手を握る。篤厚な語調で言う。
「顔が赤いうえに泣きそうじゃねぇか。こんなところにいつまでも居たくはないだろ。だからを引き起こして場所を移動しようとした。変なことをしようとしたんじゃない」
「分かってる。あなたに下心なんてない。私が変なのよ」
下を向いては両耳を塞ぎ続ける。リヴァイは悶々とした溜息をついた。
「あんなの聞いてりゃ誰だって可怪しくなる。お前だけじゃない」