第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
形のよい薄い唇は、どんな感触だったろうか。指で自分の唇を触れる。口紅を塗っているからしっとりしているが、リヴァイのはさらりとしており、よりはふかふかではなかったと思う。
リヴァイが首を傾けた。
「どうした」
「唇がさらっとしてた。でも柔らかくて」
「ああ?」とリヴァイはいっぱいに眉を顰めた。夢を見ているようなの表情で、なんのことかを察したようだ。動揺が垣間見える瞳を瞬かせて口許を手で覆う。
「何言ってんだ、お前。まさか自分のと比べてんじゃねぇだろうな」
「え?」不覚な発言にいまさら気づいた。はあわあわし、冷たい手で両頬を押さえる。
「やだ、頭が可怪しかったみたい! わ、忘れてくださる?」
「努力する」
頬を苦そうにして言い、半球の屋根の白いガゼボのほうへリヴァイは顔を逸らしてしまった。
ぽかぽかと頭を殴りたい気分だった。たった一杯のシャンパンで気が緩んでしまったのだろうか。
リヴァイとは反対側に半身を傾けては暴れる心臓を触れた。ふうと長く息を吐き出して落ち着かせることに集中する。
月光を浴びる庭園は水の音と虫のさざめきだけが涼しげに響き渡っていた。会話が途切れてしまい、噴水の水の流れをただ凝視するしかない。
すると、枯れ枝を踏んだような乾いた音がした。意識をそちらへ向ける。
「何かしら」
そんなに離れていない庭園の隅で何かが動いていた。眼を凝らすと二つの人影だと分かり、こんもりとしたハーブ畑の一角に消えていった。
「おい、見るな」囁き声でリヴァイが諌言してくる。
「何かしらね、あんなところで隠れるように」
言いながら向き直ると、嫌そうな色がリヴァイの表情に表れていた。「どうかした?」
やがて理由が判明する。
――ああ、いい。
艶かしい女の喘ぎ声が、薔薇香る風に乗っての耳に届いたのである。
あまりの衝撃では石になった。リヴァイと向き合ったまま、茶の瞳が徐徐に大きく見開いていく。顔にみるみる熱が広がっていくのを感じていた。
――ああ、もっと、もっと。ああ。
艶かしい声がさらにエスカレートしていく。情事は盛り上がっているようである。