第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
「か、返してくださる?」
「なぜ顔を隠す」
は下を向いたまま答えられないでいた。するとリヴァイが噴水のほうへ羽根扇をぽいと投げ捨てた。
「なんてことするの、人の物よ!」
突然のことで顔を上げたは半分腰を浮かせる。壷を抱える女神像の近くで、ぽちゃんと落ちる音がした。
「いらねぇだろ」
「いるわよ!」
立ち上がって強く言い返したは、顔を隠していないことに気づいてはっとする。急ぎ両手で覆うとした。リヴァイに両手首を瞬時に掴まれる。
「あばたがあるわけでもないのに、なぜ隠そうとする。自分の顔に自信がないのか」
「そ、そうよ。自信がないの」
「なら扇はいらない」
どういう捉え方をしたのだろう。分からないが、とにかく距離が近過ぎる。の胸を甘いうずきが襲う。
「だからって噴水に捨てるって――ないと思うわ」
「あんなもんどこにでも売ってるだろう。必要ならあとで弁償してやる」
いまだけ必要なのだ。が、リヴァイに驚いた様子は見られないので顔を隠さなくても平気そうだけれど。といえど彼がいるのなら、もうここには留まれない。せっかく風景を楽しんでいたというのにがっかりである。
「弁償なんて結構ですわ。屋敷に予備がありますから」
ではこれで失礼、というふうにはぷんぷんして頭を下げた。去ろうと足を踏み出すと、解放されていない両手首をリヴァイにぐいと引かれる。
「行かないほうがいい」
「どうしてよ」
リヴァイはバルコニーのほうへ顎を投げた。そこでは知らない男がこちらをじっと見ていた。
「目当てだろう」
「またぁ?」
仰ぎ見たの声は、ついひっくり返った。言ったあとで、とても自意識過剰な発言をしたと思い、恥じて口を結む。
「何人目だ」
「か、関係ないでしょう、あなたには」
唇を窄めては顔を逸らす。リヴァイの表情が僅かに鼻白んだ。
「引く手あまたとは結構だな。誘いに乗りゃいいじゃねぇか」
「一人でいたい気分だったの。ですからここに来たのに」
「追い払いたいか」
「そうね、断るのも疲れるから」