第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
「妙案は」
そう言ってリヴァイはベンチに腰を降ろした。次いでの手首を遠慮なしに引くから冷たいベンチに座ることになる。
「俺と一緒にいることだ」
「あなたが直接あの方に言ってくださるの?」
「直接言うまでもない。間接的に効果を発揮する」
と言い、バルコニーのほうへ顔を巡らす。
二階にいる男が、びくんと肩を痙攣させたように見えた。ややして怖がるように大広間へ消えていった。一体何をしたのか。
整髪料のせいか、いつもより束感があるリヴァイの後頭部に言う。
「もしかして眼力を使った?」
「一睨みであのざまか。小胆なくせして女を口説こうなんざ、百年早い」
女神の壷から水が流れ落ちる噴水へとリヴァイは向き直った。蹴るようにして足を組む。
は眼をしばたたく。
「口説きにきたの? あの人」
「は?」リヴァイは呆れた眼をする。「何人にも誘われたんだろう。口説く以外に何の目的で近づく」
「仕方なく、余りものに声をかけてるのだとばかり思ってたわ」
「とんだお嬢様だ。そんなわけないだろう」
溜息をついてリヴァイは首を振った。
「だって」
私なんか相手にされるわけない、と言おうとしたら、いきなり顎を掴まれた。リヴァイの端正な顔がぐぐっと近づく。
「自覚がないのは罪だな。ケツから蜂蜜を散らしながらミツバチがぶんぶん飛び回ってるようなもんだ。男は差し詰め蟻か――地上に散った蜂蜜に群がる」
奥まで見通すように眼を細めてからリヴァイは手を離した。
ちなみにミツバチは腹に蜜を溜めるのであって、巣に帰ると口移しで蜜を吐き出すのだ。尻から散らすという彼の独特な発想は実に卑俗である。
「私がミツバチなの?」
掴まれた顎の感触を消そうと撫でながら聞くと、リヴァイが舌打ちをした。しかしにではなく、バルコニーのほうへだった。
「また蟻が来やがった」
黒いスーツの男が見えた。しばらくすると去っていったので、またぞろリヴァイが睨みつけたのだろうと思った。
確かには男を呼び寄せているようだ。
「とても下品な表現でしたけど的確な気もしてきちゃうわ。でも私、甘い匂いなんてするかしら」