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水平線に消えゆく[進撃の巨人/リヴァイ]

第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)


 後れ毛をたゆたわせる優しい夜風がフルーツ様の香りを運んでくる。
「わあ、いい眺め」
 二階からは庭園が見降ろせた。赤や黄色に色づくカップ咲きの薔薇が咲き誇っている。満開の具合から、季節は初夏が訪れたのだと分からせてくれた。
 側にある螺旋階段で下に降りてみることにした。ひんやりとした青銅の手すりに触れながら、転がり落ちないようにゆっくりと下っていった。

「イギリスの庭みたい」
 柔らかい芝生に降り立っては辺りを眺めながら歩いた。オベリスクやアーチにこんもりと絡まる薔薇が弱い風に揺れている。次いで濃い芳香が鼻をくすぐってくる。
 噴水の前にある石造りのベンチには腰掛けた。思っていたよりも足が疲れていたようで、座ると染み渡るような疲労感を感じた。

 どれほど眺めていたろうか。おとぎ話の絵本の中にいる気分でくつろいでいたら、バルコニーのほうから声が降ってきた。
「会場にいねぇと思ったら、こんな所にいたのか」
 はバルコニーのほうを仰ぎ見る。階段を降りてくるリヴァイの姿を捉えた。

(なんで鉢合わせするのよ)
 思わず腰を浮かせる。言い方が探していたようにも聞こえたので偶然な気もしないが。「お、扇。顔を隠さなくちゃ」
 だが手に持っていなかった。ベンチの両側をきょろきょろと探すがない。どこかに置き忘れてきたようだ。
 焦る。「どうしよう」
 顔付近で両手を翳しているは、ひどく不自然に見えると思う。いまは夜で陽射しなど出ていないのだから。

 階段を降りきったリヴァイが、ゆったりとした足取りでこちらに近づいてきた。
(やだー、こっちに来るし)
 おろおろと挙動不審なのそばで、芝を踏み鳴らす音がやんだ。
「探しものはこれか」
 一時間前と同じように、顔を伏せている視野に羽根扇が現れた。

「ええ、どちらで拾ったの?」
 受け取ろうとすると羽根扇がひょいと逃げた。リヴァイが引っ込めたからである。
「バルコニーに落ちてた」
「そ、そう。拾ってくださってありがとう。探していたから助かりました」
 もう一度手を伸ばすが羽根扇はなおもひょいと逃げる。どうして意地悪をするのか。
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