第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
二人の間には信頼関係があるようだ。このたびの容赦ないエルヴィンの決断を、フェンデルはどう思っているのだろう。は控えめに訊いてみた。
「今回のことで、仲違いになどなりませんよね?」
「すべてはわしが悪い。エルヴィンの言い分は間違っとらん。タイミングを見計らって壁外調査の前に辞めさせようと思ってたんじゃが、こんなに早く機が訪れるとは思わなんだ」
すまんな、とフェンデルは頭を下げる。
「仕方ないです。私もおじさまの言うなりに決めてしまって、何一つ自分で兵団のことを調べようとしなかったんですもの」
綺麗に整えてある眉を下げては微笑する。
「壁外調査のことを知っていたら、きっと全力で断っていました。私にも否はあります」
眼を細めてフェンデルは遠くへ視線をやった。その先には挨拶をしているエルヴィンと、少し後方で飾りになっているリヴァイの後ろ姿があった。
「が壁外調査に出ると聞いたとき、目の前が真っ暗になった。じゃが不思議といまは晴れとる」
「晴れてる?」
「あの男と同じ班なのじゃろう」
言われて、はフェンデルの目線を辿って振り返ってみた。つまんなそうにしているリヴァイが小さく見える。
「はい。精鋭班です。初列索敵といって、一番……」
口にしたくなかった言葉を、怖いくらいの真面目な表情でフェンデルが引き継ぐ。
「死亡率が高いのじゃろう」
「そうです。なのにどうして目の前が晴れるというんですか?」
「あれがのそばに常にいるというのなら、絶対に無事に帰ってこれる。わしはそう思った」
絶対という言葉をフェンデルは力強く言ってみせた。
「そこまで言い切れるのはどうしてですか?」
と眼を合わせてフェンデルは言う。
「あれの眼が誠実だったからじゃ。終始寡黙だったくせに、最後は余計なことを言い置いた。どうしても伝えておきたかったんじゃろう」
自分の左胸をどんと叩く。
「人は外見だけじゃ分からんよ。どんなに礼儀正しく見えても、品格があるように見えても、中身が伴っていなければ意味がない。あの男は確かに無愛想で礼儀がなかった。だがそれは外側じゃ。大切なのは中身じゃよ。わしはあれの中に、温かいものを見たような気がした」