第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
「エルヴィン団長は、おじさまに対してひどく感謝しているようでしたけど、それと何か関係があるんですか?」
「あやつがまだ分隊長だったころじゃ。上官の不正を正そうとしてのう、だがしかし逆に恨みを買って罠に嵌められてしもうた」
「罠?」
フェンデルの声が掠れているので、通りかかったウェイターから水を貰う。ありがとうと彼は受け取って一口飲んだ。
「そのころ反政府運動が盛んでの。彼ら反乱分子に、エルヴィンが国の機密情報を売った罪として起訴されたんじゃ。罪をまるっきりなすりつけられてしもうたということじゃ」
「その事件におじさまは関わっていたんですか?」
「当時わしは裁判員をしておった。審議で堂々とした風体の、曇りのないあやつの眼を見てこれは無実だと思い至っての。まぁ勘だったんじゃが」
フェンデルの勘は正しかったのだろう。無罪放免となったからこそ、いまの現団長があるのだろうから。
「おじさまの眼は確かだったんですね。そうでなければ団長でいられないもの」
いや、とフェンデルは首を振る。
「たとえ無実であろうと、一度でも裁判沙汰を起こせば一生の傷になるんじゃ。すなわち出世の道が絶たれるんじゃよ」
「でも団長になっていますが?」
「旧団長が退陣して次の選任時に一悶着あっての。次期団長はエルヴィンという声が上がったんじゃが、トップに立つ人間は汚れていては駄目なんじゃ。まっさらでないといかん。案の定、昔の裁判沙汰を引き出しての反対意見が多くての」
水をまた含んで、
「個人的にあやつを買っていたわしが、総統に進言したんじゃ」
分からなくて、は首をかしげた。
「総統?」
「三兵団のすべてを統括するトップじゃよ」
「ということは、総統はおじさまの進言を呑んでくださったのですね」
「日数を要したが、無事団長の座に着くことができた」
エルヴィンにはそのときの恩があるということなのだろう。
「エルヴィン団長にも、そのような過去があったなんて意外でした」
「この件は巧く収まったからよかったが、いまだ正直者が馬鹿を見る世界だ。何とも理不尽じゃが」