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水平線に消えゆく[進撃の巨人/リヴァイ]

第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)


 それはロココ様式の建築を思わせる豪邸だった。横に広い長方形のお屋敷は、シンプルで尖った部分がなく、全体的に白い土壁で作られていた。いまは夕刻で空は茜色だが、明日の昼には空の青さと屋根の青さがくっついて同化してしまうかもしれない。それほどに青い屋根が特徴的だった。白い格子窓が縦にも横にもずらっと並んでいるさまからは、部屋数の多さを物語っていた。

 玄関に入ると真紅の絨毯が一番に目についた。右側に二階へと続く大階段があり、内装の壁と同じように白い木製で、手すりには彫刻が掘られていた。左側には特大の華美な花瓶が飾ってある。百合の花が生けられており、ホール全体に濃厚な花の香りを漂わせていた。

 老人の立ち居振る舞いから何となく思っていたことだが、とんでもないお金持ちのようだった。
「ついてきなさい」
「お邪魔します」
 絨毯の上を歩き、老人は横に曲がって三個目の扉を開けて入っていった。あとに続くと、どうやらここは客用の応接間のようであった。暖炉があるが、いまの時期は使っていないみたいだ。

 「座りなさい」と老人がソファに手を差し出した。は腰を降ろした。沈み込みそうな柔らかさに思わず肘掛けを握る。
 アンティークな振り子時計が時間を刻む音だけが響いていた。は何となく振り子を眼で追っている。自分のことを老人にどう説明しようかと、さっきからそればかり考えていた。

 ワゴンを引いたメイドがやってきて老人との前に茶を出した。

「とりあえず、一口飲んで落ち着こう」
 老人は落ち着いた仕草で紅茶を啜る。
「いただきます」
 もカップを取って口に近づけた。紅茶の温かさと、ふうわり香る花の香りで緊張がほぐれていく。
 老人がカップを置いた。「まずは互いの自己紹介かの。わしの名はフェンデル。しがない貴族の端くれじゃ」
「私はと言います……。あの、東」

 東京からきました、そう言おうとして噤んだ。
 素性をすべて話して大丈夫だろうか。フェンデルは良い人のようだが、それは第一印象であって、本当に信用してよいものか惑った。さきほどのことで人間不信になっているのかもしれない。
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