第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
エルヴィンに片腕を強く引かれたことで、ようやくリヴァイは手を解き放った。
「失礼のないようにと、あれほど言ったじゃないか! 大事な出資者のご令嬢なんだぞ!」
怒られているのに反省の色も見せず、リヴァイはおもむろに立ち上がった。頬冠りで耳も傾けていない。
代わりにエルヴィンが頭を深く下げた。
「大変申し訳ないことをいたしました。あとでよくこらしめておきますので、どうかお許しください」
「いいんです、お気になさらないでください」
それだけ言うので精一杯だった。口づけされた手を胸の中で庇うは、荒れ狂う鼓動に襲われていたのだ。顔の赤味もまだ取れない。悔しいが、リヴァイに心をくすぐられたからに相違なかった。
淑女の声が後ろからかかった。
「フェンデル伯爵様、わたくしの息子を紹介したいのですが、よろしいでしょうか」
「おお、ミネルバ婦人」とフェンデルが振り返ると、エルヴィンは頭を下げた。
「すっかりお引き止めしてしまいました。我々はこれで失礼します」
「すまんな、エルヴィン。またゆるりと話せる機会を設けようじゃないか」
「ええ、ぜひ」
と眼をしならせたエルヴィンは、去り際に言い忘れたとばかりに振り返った。
伯爵、と呼ばれてフェンデルとも再び向き直る。「どうした?」
何も裏がないような晴れとした微笑みでエルヴィンは言う。
「先月ご紹介していただいた殿ですが、来月の壁外調査に随行してもらうことになりました」
彼の言葉が大岩となっての頭に落ちてきた。おそらくフェンデルの頭にも同じものが降ってきたに違いない。白内障の眼がショックを隠しきれずに見開いていた。
引き攣った顔でフェンデルは笑う。
「ま、待てエルヴィン。はまだ入団したばかりじゃろう」
「はい。ですが、彼は国の未来のために尽力してくれると約束してくれました。万年人材不足な調査兵団にとって、彼のような勇気ある青年は実にありがたいことです」