第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
手を突いて立ち上がろうとすると、白蝶貝のカフスがちらりと見える手首が差し出された。リヴァイの表情はとっくに無表情なものにすげ替わっていた。
「また転ぶ」
「……ありがとうございます」
迷ったがリヴァイの手を借りることにした。温かい手に左手を重ねると、ぐっと引き起こしてくれた。
「もう結構です。お恥ずかしいところをお見せしましたわね」
手を離そうとしたら、
「挨拶がまだ終わっていない」
と引っ張られて、二、三歩空足を踏まされた。思いがけない失敗に動揺しており、は貴族のような優雅な微笑を保てていない。
「え、あ、そ、そうでしたわね。わ、私は・フェン」
続きが喋れなかったのは、リヴァイに鋭い眼光で射抜かれていたからであった。
「ど、どうかされましたか?」
リヴァイは何も発しない。握っているの手の付け根あたりを、指で探られているような感触があってこそばゆい。もしかすると女を口説くリヴァイの常套手段だろうか。強過ぎる眼差しからは、とてもを口説き落とそうとしているようには見えないけれど。それに、剣術の稽古で手のひらは豆だらけなので、そのような状態の手をじっくり触られるのは女として嫌だった。
遠ざかり気味には言う。
「あの……、ただそうしているだけなら離してくださる?」
「いや。思うことがあっただけだ」起伏なく言ってリヴァイが王子様のように突然跪いた。「兵士長をしているリヴァイだ」
をまっすぐに射抜いたまま、リヴァイの薄い唇が手の甲に近づいていく。温かい感触が触れた。音などしていないと思うのに、頭の中でちゅっとリップ音が鳴った。
さっと両頬を赤く染め、は眼を剥く。
「な! ちょっと!」
握られている手をぐっと引くが、さらにぐっと掴まれて逃げられない。リヴァイの唇は手の甲に触れたままである。
「し、失礼でしょ! は、離しなさいよ!」
の悲鳴に、お喋りで盛り上がっていたエルヴィンが気づいた。顔色を青く変える。
「リヴァイ! 嬢に何をしているんだ!」