第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
珍しく前髪を後ろに流しているリヴァイは、とても精悍に見えた。皺のない額に一束零れ落ちている髪の毛が、いやに色っぽい。漆黒のテイルコートも良く似合っている。
(ドキドキしてきちゃった。なんで? いつも見ている顔でしょ)
見慣れている顔だけれど、今夜は垢抜けているせいだろうか。緊張とは別の鼓動で胸が甘く痛かった。羽根扇の柄を握る手が汗ばんでくる。
対面している二人は一言も発しない。リヴァイはやる気なさそうに口許を閉じている。
(こういう場合は男性がリードするものでしょう。私から頭を下げろっていうのかしら)
ドキドキしている裏側で小さな不服を覚えた。早く終わらせてこの場を去りたいから、はこちらから折れることにした。
「初めまして。わたく」
片足を下げて腰を折ろうとした。ところが、ピンヒールを履いている足を内側に捻ってしまう。
曲がった足首に体重がかかって鈍い痛みが走る。小さく悲鳴を上げて、は冷たい大理石の床に崩れた。
「大丈夫か」
追うように屈んだリヴァイが、迷惑と心配の半々といった様子で眉を寄せた。
「ちょっと足を捻っただけですわ。ヒールが高いから」
顔を下に向けているは、マーブル模様の床に突いた自分の両手を見て眼を見開く。羽根扇を持っていない。
「あれ? 扇がない! さ、探して!」
「扇?」
陽射しを避けるようにこめかみに手を翳す。尻を浮かせて慌てふためいては探した。が、焦っているためにしっかり顔を隠せていない。
顔を覗き込むようにして、リヴァイはの行動を怪訝そうに見ていた。が少し顔を上げた拍子に、リヴァイが我が目を疑うとばかりに双眸を瞠った。
が、は探すことに必死でリヴァイの変化に気づかない。
「どこ? どっかに飛んでいっちゃったのかしら」
下向きに探していた視界に、ふわふわな青い毛がついた羽根扇が差し出された。
「これか」
「そう、これ! あ、ありがとうございます」
失礼になってしまったが、引ったくるようにして羽根扇を受け取った。は急いで顔面を覆う。