第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
エルヴィンがリヴァイの名前を出したことに反応して、ずっと背を向けていたはそろりと向き直った。不自然に後ろを向いていたというのに、いままで指摘もされなかったのは、二人の会話がそれだけ弾んでいたからであった。
辟易というふうにそっぽを向いていたリヴァイの顔が正面を向く。小さく溜息を零したことには気づいた。
「兵士長をしているリヴァイだ」
なんという挨拶だろう、愛想がまったくなかった。
小さな声でエルヴィンは非難する。
「おい、ちゃんとしてくれと、さきほども注意しただろう」
「よいよい」笑んでフェンデルは片手を振る。「男というものは、あまり周囲に媚びても格好悪いものじゃ。世のために尽力してくれているのだから、むしろわしは気にならん」
一応しっかり眼を見てリヴァイは挨拶をしたけれど。また顔が逸れていくとき、ちらりとを見てきた。表情も変えずに、興味がないといった態で、貴婦人の塊のほうへ瞳が流れていった。
(全然気づいてないみたいだわ。エルヴィン団長も特に変化はないし、なんとか大丈夫みたい)
安心して、は羽根扇越しにほっと息を吐いた。きちんと顔を隠していれば露見せずに済みそうである。だからといって長居はしたくない。ボロが出てしまうと困るからだ。
二人の楽しげな会話が一段落ついたようだ。エルヴィンはようやくに気づく。それで眼を丸くしたから見抜かれたと思って、一瞬どきりとした。
「伯爵、そちらのご令嬢は? もしやと思いますが、再婚されたのですか」
「それは愉快なお主のジョークか?」
フェンデルは笑って、
「こんな若い娘が、よぼよぼのじいさんのところへ嫁に来るわけがなかろう。娘じゃよ、わしの」
「養子に迎えられたのですか」
「うむ。近頃一人でいるのが寂しくなってしもうての。養子といっても、どこからともなく貰ってきたわけじゃないぞ。歴としたわしの血縁じゃ」
聞き入れたエルヴィンは穏和な表情を見せた。
「事情を知らなかったので、つい驚いてしまいました」に頭を下げる。「大変失礼いたしました。話に夢中でレディを置き去りにしてしまったことをお許しください」