第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
「リヴァイ。タイが曲がっていないか見てくれ」
聞き覚えのある低い声。その声が口にした知っている名前に反応して、反射的には足を止めた。
「お、おじさま、いまの聞こえましたか?」
「ん? 何がじゃ?」
フェンデルは首を傾けている。耳が遠いようで聞こえなかったらしい。
「なんだろ、やだな……空耳だったらいいんだけど」
動揺を押さえ込もうとは空笑いする。念のために手で隠した顔をそろりと背後へ巡らせた。
そして眼にしたのは、少し離れた位置にある馬車からリヴァイが降りたところだった。エルヴィンを見上げているリヴァイは、どうしてか正装している。
「逆さまになってる」
「子供みたいな嘘をつくな、リヴァイ」
と言ってエルヴィンは胸許のハンカチーフを整えた。
リヴァイは口端を歪ませている。首許のホワイトタイを緩める仕草をした。いつものアスコットタイではなく、ドレスコードに倣ったものをしっかり締めていた。
「憂鬱過ぎて捻くれたくもなる。来たくもねぇのにつき合わせやがって」
「女より、お前を隣に置いたほうが華になるからな」
「出資者を釣る餌か俺は。毎度毎度反吐が出る」
「そう言わないで協力してくれ。くれぐれも愛想よく頼むぞ」
二人は入り口へ向かって歩き出した。は顔を隠しつつ、こそこそとフェンデルを影に引っ張る。
「どうしたというんじゃ、」
「おじさま大変です! エルヴィン団長とリヴァイ兵士長がいます!」
「どこじゃ」
植木の影に隠れては彼らを注意深く見た。指を差して教える。
「あそこです! あそこ! やだ~、会場に入ってく〜!」
「本物じゃな。調査兵団も招待されていたか。こういう場じゃからな、別段可怪しくはない」
が狼狽しているというのにフェンデルはのほほんとしている。
「可怪しくないとかではなくて! 会場でもし鉢合わせするようなことがあっては困ります!」
「なんでじゃ?」
フェンデルはきょとんと首をかしげた。どうして落ち着いていられるのか不思議でならない。
「だって私は調査兵なんですよ! しかも男ってことになってるんですよ!」
「そうじゃな」
「女である私を見られたら拙いです!」