第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
「どうしたんじゃ、」
フェンデルは表情を崩さずに、大人っぽくアップに纏めてきたの横髪を撫でつける。
「不安でいっぱいの顔をしておるのう」
「だって、私じゃあの人たちみたいに振る舞えないもの」
ポルチコが柱列している立派な入り口へと、洗練された貴族らが入っていくのを、は横目で見る。
「着飾った自分を鏡で見なんだか?」
が首を横に振ると、涙型にカットされたダイヤの重いイヤリングがゆらゆらとあとを追って揺れた。首許にも白金台の精巧な透かし細工が見事な、揃いのネックレスをしていた。
亡き妻の遺品だというアクセサリーは、姿見を見ながらフェンデルがに着けてくれたものだ。鏡に映るは別人のようで自分でも驚いたほどだった。が、着せられている感が拭えなかったのである。
「豪華なドレスを着たって、中身まで変わるわけじゃないんだし」
「見せかけの振る舞いなど品格があるとはいえない」
「見せかけって私のことですか? 本当の貴族じゃないから」
「いいや、彼女らのことだよ」フェンデルは顎で入り口を示す。「偽りの品格に、自分が劣っていると思わんでいい」
は首をかしげた。
「あの人たちの振る舞いが嘘だってことですか?」
「全員じゃないが。貴族の娘など、実は結構遊んでおるんじゃよ。見る者が見れば分かる」
傾いてしまったティアラをフェンデルの皺だらけの指が優しく正してくれる。
「気後れすることはない。どの令嬢にも引けを取らぬほど、今夜は素敵なレディじゃよ。わしの妻が愛用していたティアラもよう似合っておる。髪の色は違うが、そっくりなどほどに美しい」
フェンデルのお茶目な冗談で、の強張った表情はようやく崩れた。
「嘘ばっかり。あんな綺麗な奥様に私が似ているはずはありません」
「その笑顔じゃよ。さあ、行こう」
緊張を解いてくれたフェンデルには笑いかけた。「はい」と頷いて入り口へと向かおうとしたときだった。