第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
「そこでぼーっとされていると、わしが降りられんのじゃが」
背後にかかった忍び笑いで、場の雰囲気に呑まれていたは正気に返った。塞いでいた扉口から急いで横にずれる。
「ごめんなさい。お城に気を取られちゃって」
「は社交界デビューになるんじゃな。なに、恐れることはない」
よっこらしょというふうにフェンデルは杖を突いて馬車から降りた。
次々と到着する馬車。いかにも貴族な、華やかに着飾った貴婦人や紳士が降り立って、城へと向かっていく。のようにビクビクしておらず、堂々としている。
「私、場違いじゃないでしょうか。やっぱり帰ったほうがいいような気がします」
「さっきまで童のようにはしゃいでおったではないか」
気後れしているをフェンデルは風雅に笑い飛ばす。
「それはよく見えてなかったから。お城と貴族の方たちを間近で見たら、とてもじゃないけど無理な気がしてきました」
「何が無理なんじゃ?」
「おじさまの相応しい娘として、演じ切れる自信がありません。恥をかかせてしまうことになりそうで」
の背に手を添えてフェンデルは歩くよう促した。
「何を言うとる、すでに相応しい娘じゃ。演じる必要などない。ありのままでいいんじゃよ」
ロイヤルブルーを基調としたビスチェタイプのドレスは、地上すれすれで引きずりそうだった。はドレスの脇を慌てて摘む。
「ありのままなんてそんな……それこそおじさまが恥を掻きます」
ヒールの高い靴を普段好んで履かないから歩きづらい。バランスを崩しそうになりながら、は追いつめられた気分で言い募る。
「ディナーの際はフォークとナイフを外側から使うとか、フィンガーボールは飲みものじゃないとか、そんな基本のマナーしか知りませんし」
「充分、充分」
シルクの燕尾服を着用しているフェンデルは朗らかなまま取り合ってくれない。
「おじさま!」
強めに言い、はフェンデルの腕を掴んで止めさせた。光沢感のある立体的なプリーツフリルの裾がふんわり揺れた。
「真面目に聞いてください!」