第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
言われたまま、疑うことなくは息を吐き出していく。
「もっとです。もっと」
肺が縮んで苦しい。最大に空気が抜けた隙を狙って、メイドはコルセットの紐を一気に締め上げてきた。
尋常じゃない締め上げには焦る。
「ちょっと待って! 苦しいって! これじゃ息を吸えないわ、やり直して!」
「苦しいのなら成功ですわ。コルセットは補正下着なのですから」
成人式で振り袖を着たときよりも酷なつらさであった。加えて、ひしゃげそうなほどに肋骨も痛い。
「こんなんじゃまともに動けないって!」
「弱音を吐かれてはいけません!」
抗議を跳ね返し、メイドはさらにコルセットを締め上げていく。
「女性の腰をいかに細く見せるか! 勝負はそこで決まります!」
中世ヨーロッパの貴婦人にとって細いウエストは美の象徴だった。細ければ細いほど美人と言われたらしい。こちらの世界でも例外ではないようだ。
(倒れそう……、血流が頭に登っていかないんだけど)
締めつけのせいで血の巡りが悪くなっているのか、の胸許は死んだように白い。社交界へ出席する前に気をやってしまいそうだ。
「ほかの女性と男性を巡って競う気なんかないのに。むしろご馳走を楽しみにしてたのよ。これじゃ食べられないじゃない」
項垂れるにメイドは注意してくる。
「あまりガツガツ食べてはみっともないですからね」
「心配せずとも、こんなんじゃ胃に入りません」
恨めしい思いではぼやいた。
「お酒もほどほどに」
とさらに注意してきたメイドの顔色が、急に鮮やかになった。声援を送るようにの両肩を力強く叩く。
「酔ったフリで殿方を魅了するのは、おおいに結構ですわよ!」
「……殿方の話ばっかりね」
はやつれた笑みで呟いた。
前見頃を整えているメイドが腕を組んで首を捻り出す。
「寂しいですわね」
呟いてから、ひらめいたように手を叩いた。胸とコルセットのあいだに綿を詰め込み始めた。
「また何してるの?」
「胸許にボリュームを出しましょう」
要するにパッドの代わりのようだ。胸の谷間でさえ僅かな隙間が見られないのに、無理にぎゅうぎゅう詰め込んでいく。