第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
メイドに手を引かれた。湯上がりの身体を隠しているタオルを問答無用で剥ぎ取られる。
「え、ちょっと、恥ずかしいんだけど」
「まあ、可笑しいこと。女しかおりませんのに恥ずかしいも何もないですわ。さあ、顔を下にして横になってくださいまし」
促されて全裸のままソファに寝かされた。赤味がまだらに浮かぶの裸を、数人に見降ろされていて背中が照れる。
メイドは傍らに膝を突いた。ボトルから手のひらに何やら垂らす。
「それは何?」
「香油ですわ」
他人の手の温もりと、ぬるりとした感触がの背中を滑っていく。ラベンダーだろうか、空間に清涼感の強い香りが漂い始めた。
「いい匂いね。何かのハーブ?」
「庭園で栽培しているラベンダーから抽出したものです。保湿効果もありますけれど、素敵な香りは香水代わりになります。殿方がお好きな香りもブレンドしてありますよ。裸になられてもいいように、たっぷり塗り込んでおきましょう」
これから出掛けるのに、どこで裸になる機会があるというのか。うつ伏せのは、組んでいる腕に乗せていた顎を浮かせた。
「ごめん、意味が分からないんだけど」
「やですわ、様ったら」
恥ずかしそうに言い、メイドは頬をさくらんぼ色に染めた。
「社交界で殿方にお気に召されたときに、恥をかかないため――ですわよ!」
数人のメイドが揃って乙女な声を上げて照れる。は口許を引き攣らせた。
「そんなのあるわけないでしょ。なにを想像してるの」
「あら、そんなこと言わないでくださいまし!」
ぷんすかしてメイドは言う。
「様が殿方に見初められなかったら、私どもの力不足だったということになるんですのよ。それは不手際ですわ、恥ですわ」
「そうかしら。相手にも好みがあるのよ。煌びやかな空間で私がぽつんと佇んでいても、あなたたちのせいじゃないと思うけど」
ボトルを振って手にオイルを散らしながらメイドは溜息をついた。
「すっかり冷めておられますわね。男装などなさるからですわ、おいたわしいこと」
「そうなの? そういえば……兵団で男に囲まれてても、ときめきも何も生まれないのは、そのせいなのかしら」