第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
婚姻して間がないうちに、悲しくもこの世から去ってしまったのだろうか。だからフェンデルには跡取りがいないのだろう。
「隣の男性は若かりしころのおじさま?」
「さあ? こちらの画は私どももよく知りません」
メイドたちは揃って首を捻る。
「よくよく見ると面影はありますわね。髪の色が違いますけれど」
「うん。白髪となったいまでは分からないけど、もとは栗色だったのかもしれないわ」
画を眺めながらは浅く溜息をついた。
「年をとると様変わりしちゃうのね。なんか未来が憂鬱」
焦ったようにメイドはきょろきょろする。声を潜めて言う。
「さま! 思っていても口にしてはいけませんわ! 昔とお顔立ちが全然違うだなんて、そんな失礼なこと!」
「あら? 私はそこまで言ってないけど?」
とぼけて笑い、はさっさと歩き出した。駆け足でメイドも続く。
「もう、様ったら! あんまり意地悪しないでくださいな」
「おじさまには言わないから大丈夫よ」
浴場に着くと、メイドたちはに続いて脱衣所まで入ってこようとした。
「湯浴みをお手伝いいたしますわ」
「いいって! 一人で洗えるから!」
メイドの背を押して廊下に追い出そうとは奮闘する。未練があるようで、メイドは顔を巡らせてきた。
「ですが、お一人では隅々まで洗えませんでしょう? 汚れが残っていたら、あとで恥をお掻きなるのは様なのですよ?」
「子供じゃないんだからしっかり洗えるって。毎日のストレッチで背中に手が届くようになったし」
証明するために両腕を後ろに回した。背中の真ん中辺りで手を結んでみせる。「ほらね?」
「ではしっかり洗ってくださいましね」
名残惜しそうにしていたが、メイドを追い払うことに成功した。
すでに湯が湧いているだだっ広い浴場で、は日頃よりも丁寧に身体を洗った。あとでケチをつけられても困るからである。
バスタオルを巻いて浴室に出ると、さっきまで脱衣所にはなかったクラシックなカウチソファーが鎮座していた。そばではメイドが整列している。
にっこり笑顔がなんだか怖くて、は後退りした。
「何が始まるっていうの」
「さあ、様。こちらへ」