第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
「本音を言うと、ほかの女の子たちが羨ましく見えて、どうしようもなくやっかむこともあったんです。街で香水や口紅を買ったとか、新作の服を見せ合ってたり――食堂でそういう話が聞こえてくると、話の輪に入りたくなったり。でも男だから」
俯いては喉を詰まらせる。壊れものに触れるようにフェンデルが肩に手を添えた。
「すまぬ。がそんなふうに周りを羨んでいたとは知らなんだ。わしはいま、ひどく懺悔したい気持ちでいっぱいじゃ。単なるじじいの悪ふざけのせいで、つらい思いをさせてしまっていたとは」
内に留まる涙で瞳を揺らし、微笑しては首を振った。
「いいんです、男のフリもだいぶ慣れてきましたから」
「そうは言うが」
「いいんですってば!」
偽りのない最高の笑顔で、
「だって、今夜はうんとおしゃれしていいんでしょう? おじさま!」
ピンヒールを片手に抱いて、はフェンデルの首に片腕を回した。そして自分でも驚くほど、ごく自然に彼のざらりとした頬にキスをした。
ほっとしたようにフェンデルの胸が大きく上下する。
「ああ。今宵の女たちが嫉妬してしまうほどに、綺麗な姿を見せておくれ」
と、の背中をぽんぽんとあやしてくれたのだった。
さあ、とフェンデルは優しく引き剥がして言う。
「気に入ってくれたようでよかった。社交界は夕方からじゃ。急いで支度をするとしよう」
「はい」と目尻の涙を拭いながら頷くと、何かを呼びつけるようにフェンデルが手を叩いた。するとどこに隠れていたのか、黒いメイド服を着た女たちが廊下から現れたのだ。
「お前たち、を素敵な女性にしてやっておくれ」
フェンデルはそう指示をして部屋から去っていった。
喜々とした様子の若いメイドたちに、あっという間には取り囲まれる。
「久々で腕がなりますわ!」
「様が出ていかれてしまわれてから、私たち暇で暇で!」
年の頃は十代から二十代のメイドたちが部屋に十人。フェンデル邸にはそれ以上にもまだメイドがおり、彼女たちはいつも暇そうにしていた。