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水平線に消えゆく[進撃の巨人/リヴァイ]

第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)


 かなりの時間をかけての部屋の前に着いた。ドアノブを握ったフェンデルは、心なしかウキウキした様相だ。
「喜んでくれると嬉しいんじゃが」
「一体何があるっていうんですか? なんだかおじさま子供みたい」
「遥か昔、蛇の抜け殻を母様の大事な宝石箱に仕込んで、悪戯をしたときと気分が似ておる」
「やだ、そういう類いですか?」
 くすくすとは笑う。
「どうじゃろうな」
 面白可笑しな語調で言ってから、フェンデルは手首を捻って勢いよく扉を開け放った。

 瞬間が息を呑んで口許を覆ったのは、自分の部屋なのに見慣れない光景が広がっていたからであった。
「どうかな」
 と、声を押さえて窺ってきたフェンデルに、返事をすることも忘れて部屋にそろりと踏み入れていく。
 ゴム紐に引っ張られるような感覚では引き寄せられていった。手を伸ばして、しっとりした生地を指先で触れる。

「素敵。これってもしかして……、私の?」
 ショーウィンドーでよく見かけるトルソーが、刺繍やレースをふんだんに使った素晴らしいドレスを纏っていた。

「そうじゃよ」
 物腰柔らかく言い、スツールの上に幾段にも積まれている箱をフェンデルは手に取った。
「ドレスに合う小物を選んでいたら、あれもこれもと増えてしまうた」
 リボンがついている箱の蓋を開ける。に見せるように傾けて、
「靴なんぞ一足で充分なのにのう。まあ、は女じゃから何足あっても困らんか。今夜は気に入ったものを身につけていくとよい」
 透ける紙で包まれていたのは高価そうなシルバーのピンヒールだった。

 指紋がついても大丈夫だろうか、とは躊躇いつつも触れた。手に取って、しばし眺めてから胸に抱いた。
「私なんかに」
「自分を卑下するでない。『なんか』ではなく『のために』じゃよ」
 フェンデルの心からのもてなしに涙が込み上げてきそうになった。
「嬉しくて涙が出そう。男として生活を初めてもう三ヶ月です。着る服も男物で、おしゃれなんて、もう縁がないと思ってました」
 切なく微笑むを見て、フェンデルは後悔のような色を表情に浮かべた。口を開くが言葉が出てこないようだ。
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