第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
「え?」と今度はぐぐっと眼を見開いてリヴァイを凝視した。その二日間が求めたかった休みであり、まさに社交界の日程だったからだ。
半分疑いながらもは口の中で呟く。
「……ほんとに千里眼?」
「は?」
は頭を振る。「いえ、何でもありません」
胡散臭そうにリヴァイは首を捻ったが、
「それでいいな」
「何がですか?」
「は? 休暇のことだろう。いらねぇなら取り消すが」
とさらに胡散臭そうにした。
大慌てでは首を振る。
「いらなくないです! 貰います、休暇!」
を見降ろすような眼差しをして、リヴァイは枠からのったりと背を離す。半開きである扉の、内側のノブを触れたように見えた。
「ならもういいな」が右手で握りしめている休暇届を奪う。「早く寝ろ。明日の訓練に障る」
そう言い、ゆっくりと扉を閉めようとした。
言うより先に手が動いた。は咄嗟に扉を押し戻していたのだ。
「なんでその日なんですか」
リヴァイは一瞬瞳を瞬かせた。
「その日は俺が本部にいないからだ。どうせお前を見てやれねぇし、エルドやグンタに任せるのも気が引ける」
扉を押すの手に横目し、
「もういいだろう、手を退けろ」
「リヴァイ兵士長も、その日に何か用があるんですか?」
「も、ってなんだ」見て充分に分かるほど、訝しげにリヴァイの両眉が寄る。
社交界に招待されているなどと口にできないのではまごまごした。
「いえ、あの、休暇を貰うなら、ボクもその日がいいと思ってたので、えーっと」
わざとらしくにこりと笑って首を傾けてみせた。
「リヴァイ兵士長は、どこに行かれるんですか?」
訊いたあとに拙かったと思った。リヴァイの表情が冷めきった色になっていた。
「そうやっていちいち詮索されるのは好かない。俺がどこへ出掛けようが、お前には関係ないだろう」
鼻先で、ばたんと強めの音を立てて扉が閉まった。瞬間、廊下に石鹸の香りが濃く舞う。
束の間放心していたは、背後で窓にばちっと何かがぶつかる音で正気に戻った。飛んでいる虫が体当たりでもしたのか。
「なによ、いまの言い方」徐々にむかむかが湧いてくる。「ただ普通に、ささいな雑談っていうか、ただそんな感じで聞いただけなのに」