第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
「窓の外が気になって。明日、晴れるかな~と」
は口笛を吹いてすっとぼけた。見られたくないものもあるだろうしデリカシーがなさすぎた。とはいえ、いかがわしそうな薄い本など見当たらず、ベッドの上に黒い亜鈴が二つ転がっていただけだったが。
「いつまで突っ立ってる。部屋に戻れ」リヴァイが顎先で隣部屋を示した。
あと少しだけ食い下がってみようか。同情を引く理由がいいかもしれない。これで無理なら諦めるつもりでは訴えた。
「これが最後になるかもしれないから、両親に元気な顔を見せておきたいんです」
言った途端、周囲が冷気で覆われた。冷たい風が流れてきたわけではなく、リヴァイから放たれる温度が急激に下がったからである。
(やばっ)
「覚悟の里帰りか」
「……まあ、そんなところでしょうか」
うなじに冷や汗が出る。
「壁外から無事に帰ってくると、いっぱしの口を利いたくせして、もう諦めることにしたか」
「なんでそうなるんですか。別に諦めてなんか」
ないです、と言おうとした語尾にリヴァイは畳み掛けてくる。
「最後になるかもしれないと、少しでも思ってるってことだろうが」
「思ってないですよ」
口調に荒さはないけれど彼をひどく怒らせてしまったようだ。適当な理由付けは明白なミスであった。
息継ぎなしでは慌てて撤回する。
「全然思ってないです。どうにかして休みをもらえないかと思って、ただ言ってみただけです」
「僅かであってもそんなことを考えるな。巨人に殺されることなく壁内へ帰ってこれるかは、生き抜いてやるという強い思いしか、お前には残されていない」
「分かってます……、ごめんなさい」
は気まずくて頭を垂れた。そんなに怒るのなら、ではどうして一番危険な精鋭班に指名したのだと不満が募ってきそうになった。ここでまた噛みついても堂々巡りになるだけなので胸の奥に押さえ込む。
引き下がるタイミングを逃してしまった。片腕をするともなくさすりつつ、は時間を持て余した。
スリッポンに似た無地の靴を履いているリヴァイの足がおもむろに動いた。扉の枠に寄りかかって足を交差させる。
「今週末だ」
「え?」
「今週末の二十一日から、二十二日の二日間だ」