第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
――ところが。
「ふざけんな、てめぇ。休暇がほしい? 訓練課程が遅れに遅れて、一日でも無駄にできないってのに戯言抜かすな」
就寝前に休暇届を持ってリヴァイの部屋を訪ねたら、こう一蹴されてしまったのだった。いつからいつまで休みが欲しいと言う隙さえ与えてくれなかった。
百パーセント要求が通ると思い込んでいたので、は不平顔になる。
「ずるいです。みんなには休暇の許可を出したじゃないですか。何でボクだけダメなんですか」
「あいつらには休みを与えてもなんら支障がないからだ。お前は一分一秒でさえ惜しい状況だろう」
扉口を挟んでとリヴァイは対立していた。ドアノブを引いたままの彼は眉間に皺を刻むことなく冷徹な目顔だ。
「わかってますけど……。でもボクだって、たまにはリフレッシュしたいです。毎日が訓練の連続で、もう何十日も外出してないですし」
「リフレッシュだ? おこがましいことを言うな、ヘソで茶が湧く」
斜めに見てくるリヴァイの風呂上がりの濡れた前髪が、ぱらぱらと横に流れた。彼から香ってくるのは清潔感のある石鹸の匂いだ。
「それに、全然外出してないと言うが訓練兵団へ行かせてるだろう。バレてねぇと思ってんだろうが、ちゃっかり寄り道してるのも分かってる」
「素晴らしい千里眼をお持ちのようで」
いじけ具合がの唇に出てしまう。行きや帰り道に雑貨屋や菓子屋に寄るくらい、いいではないか。どうやら大目に見てくれていたようだけれど。
この様子では粘っても許可が降りないかもしれない。どうしようか、と扉とリヴァイの狭間の奥へなんとなしに瞳を彷徨わせる。
部屋の間取りは同じだった。ベッドや据えられている家具は、が使用しているものよりも高そうだ。ウォールナット色で揃えられた食器棚やクローゼットが、床板の古めな木目と調和してクラシックな雰囲気を醸し出している。
はインテリアのセンスをじろじろ見ていた。と、扉口に手を突いたリヴァイの、丸襟の杏グレーシャツが視界を遮ってきた。薄目で、わりと嫌そうに口端を吊り上げている。
「人の部屋を覗き見るのは、いい趣味とは言えねぇな」